親の愛の独占や兄弟ゲンカちゅうの心理など、兄弟がいる人には共感できる点が多い『碁石を呑んだ八っちゃん』。
今回は、有島武郎『碁石を呑んだ八っちゃん』のあらすじと内容解説、感想をご紹介します!
Contents
『碁石を呑んだ八っちゃん』の作品概要
著者 | 有島武郎(ありしま たけお) |
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発表年 | 1921年 |
発表形態 | 雑誌掲載 |
ジャンル | 短編小説 |
テーマ | 嫉妬 |
『碁石を呑んだ八っちゃん』は、1921年に1月で発表された有島武郎の短編小説です。弟が兄とのこぜり合いののちに、碁石を呑みこんでしまうという一連の出来事が描かれています。
Kindle版は無料¥0で読むことができます。
著者:有島武郎について
- 1878年東京生まれ
- 札幌農学校卒業
- 「白樺」の同人に参加
- 女性記者と軽井沢の別荘で心中
有島武郎は、1878年生まれ東京都出身の作家です。父親が明治維新後の新体制で大蔵省(現在の財務省)に入ったおかげで、裕福な暮らしをしました。
札幌農学校を卒業後、志賀直哉(しが なおや)や武者小路実篤(むしゃのこうじ さねあつ)と雑誌「白樺」の同人に参加し、白樺派の作家として活動し始めます。
そのあと社会主義運動が盛んになると、自身が下層階級でなく資産階級であることに悩みます。その後、不倫関係にあった婦人公論の女性記者と、軽井沢の別荘で心中しました。
『碁石を呑んだ八っちゃん』のあらすじ
ある日、「僕」と八っちゃんは碁石をめぐってケンカをしてしまいました。弟を可愛がる婆やは、弟ばかりを気にかけています。
しかししばらく経って、僕はケンカしたことを後悔し始めました。僕が婆やのところで遊んでいる八っちゃんに声をかけると、八っちゃんは顔を真っ赤にして苦しんでいます。ここから、母を巻き込んで八っちゃんの救出劇がくり広げられるのでした。
登場人物紹介
僕
八っちゃんの兄。八っちゃんとケンカをする。
八っちゃん
「僕」の3歳の弟。
お母さん
「僕」の母。優しく、慈愛に満ちている。
婆や
弟に乳を与えている。弟を可愛がっている。
『碁石を呑んだ八っちゃん』の内容
この先、有島武郎『碁石を呑んだ八っちゃん』の内容を冒頭から結末まで解説しています。ネタバレを含んでいるためご注意ください。
一言で言うと
嫉妬
ケンカ
「僕」は、碁石を奪った弟の八っちゃんとつかみ合いのケンカをしました。八っちゃんをひいきする婆やは八っちゃんを慰め、僕のことを非難します。
その後、1人で遊び始めた僕は八っちゃんの異変に気づきます。八っちゃんは、真っ赤な顔をして口に手を入れています。婆やは「……ああ碁石を呑んだじゃないの」と言いました。
僕は、婆やの指示で母を呼びます。母は、僕に水を取ってくるよう言いました。水を飲んだ八っちゃんは、ようやく声をあげて泣き出します。「通りましたね、まあよかったこと」と、皆は安心しました。
翌日
次の日、お母さんは僕を優しく起こします。そして、八っちゃんのお腹から碁石が出たことを伝えました。
お母さんは、「今日こそあなたがたに一番すきなお菓子をあげましょうね」と言いながら、僕のパジャマを着替えさせてくれるのでした。
『碁石を呑んだ八っちゃん』の解説
聖母
『碁石を呑んだ八っちゃん』には、主人公を許して抱きとめる聖母的な役割を果たす人物として、母親が登場します。
「兄さん眼がさめて」
そういうやさしい声が僕の耳許でした。お母さんの声を聞くと僕の体はあたたかになる。僕は眼をぱっちり開いて嬉しくって、思わず臥がえりをうって声のする方に向いた。そこにお母さんがちゃんと着がえをして、頭を綺麗に結って、にこにことして僕を見詰めていらしった。
さらに、「ちゃんと着がえをして」「頭を綺麗に結って」というところから、所帯じみていない母親像が浮かび上がって来ます。「僕」が、母を母親としてではなく女性としてとらえていると読めるのです。
有島武郎『一房の葡萄』にも、主人公の過ち(あやまち)を許す寛大な女性教師が登場します。その点で、この2作品には共通点があると言えます。
外尾 登志美「「溺れかけた兄妹」 : 脅かされる子供の世界」(「日本文学41(8)1992年)
『碁石を呑んだ八っちゃん』の感想
理想的な母親
『碁石を呑んだ八っちゃん』は、碁石を呑んだうんぬんよりも、最終的に母親の優しさにフォーカスする作品だと思いました。優しくて美しい母親を描くために書かれた小説のように感じるのです。
婆やは「また泣かせて、兄さん悪いじゃありませんか年かさのくせに」「本当に悪い兄さんですね」「いやな兄さんだこと」などと言い、露骨に弟を可愛がる人物です。
こうした弟をひいきする悪女としての婆やのおかげで、母親の優しさが際立っているように思いました。
また、泣いている八っちゃんをあやしながら、母親はきつい眼をして「僕」に碁石を片付けるよう指示した場面がありました。その反動か、翌日の母の優しさには拍車がかかっています。
「今日こそあなたがたに一番すきなお菓子をあげましょうね。さ、お起き」
といって僕の両脇に手を入れて、抱き起こそうとなさった。僕は擽ったくってたまらないから、大きな声を出してあははあははと笑った。
(中略)すぐそのあとからにこにこして僕の寝間着を着かえさせて下さった。
こうした「落として上げる」母親の僕に対する態度の高低差も、母親の聖母性をより高める仕掛けなのではないかと思いました。
最後に
今回は、有島武郎『碁石を呑んだ八っちゃん』のあらすじと内容解説・感想をご紹介しました。
ぜひ読んでみて下さい!
↑Kindle版は無料¥0で読むことができます。