今回は、綿矢りさのおすすめの本を5冊ご紹介します!
綿矢りさってどんな人?
- 1984年京都府生まれ
- 『インストール』で文藝賞を受賞
- 『蹴りたい背中』で芥川賞受賞
- 早稲田大学教育学部国語国文科卒業
綿矢りさは、1984年に生まれた京都府出身の小説家です。高校2年生のときに執筆した『インストール』で、第38回文藝賞を受賞し、2003年には『蹴りたい背中』で第130回芥川賞を受賞しました。
19歳での芥川賞受賞は、いまだに破られていない最年少記録です。早稲田大学を卒業後、専業作家として精力的に活動しています。
初級編
「有名な作品を読みたい!」「話振られたとき困らないように、代表作を知っておきたい!」という方向けに、読んでおけば間違いない作品を3冊紹介します。
『蹴りたい背中』
著者 | 綿矢りさ(わたや りさ) |
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発表年 | 2003年 |
発表形態 | 雑誌掲載 |
ジャンル | 中編小説 |
テーマ | 青春 |
『蹴りたい背中』は、2003年に文芸雑誌『文藝』(秋号)で発表された綿矢りさの中編小説です。クラスの余りものの男女が、1人のモデルを通して交流する様子が描かれています。
あらすじ
高校1年生のハツは、学校生活になじむことなく孤独な日々を送っています。中学の頃からの友人・絹代は、仲間を作って集団でいることに必死です。ハツは、そんな絹代を冷めた目で見るのでした。
あるとき、ハツは自分と同じくクラスから孤立している、にな川という男子生徒の存在に気づきました。授業中にもかかわらず、にな川は女性向けのファッション誌を開いていました。
実は、にな川はオリちゃんというアイドルのファンだったのです。偶然オリちゃんのことを見たことがあったハツは、にな川と距離を縮めていきます。
感想
『蹴りたい背中』を読んで、孤立している人ほど他人より優位に立ちたいと思っているのではないかと感じました。ハツは、孤立しているさびしさを感じていないと周りにアピールしていますが、本当は声をかけてほしいのだと思います。
ハツのように自ら孤立を選んでいる人は、「こんな人達と無理して関わりたくない」「自分から声をかけるなんて負けも同然」というような考えを持っているのでしょう。
そのため、自然と「クラスメイトより自分の方が上」と考えるようになり、自尊心を増大させることになります。
にな川は何となく弱そうな雰囲気を持っており、アイコラを作るような青年です。プライドの高いハツがこうした性質を持つにな川を下に見ることで、「蹴りたい」という暴力的な感情を抱くのは想像に難くないことだと感じました。
『勝手にふるえてろ』
著者 | 綿矢りさ(わたや りさ) |
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発表年 | 2010年 |
発表形態 | 雑誌掲載 |
ジャンル | 中編小説 |
テーマ | 恋愛 |
『勝手にふるえてろ』は、2010年に文芸雑誌『文學界』(8月号)で発表された綿矢りさの中編小説です。26歳になっても中学時代の初恋を引きずり、現在進行形で受けているアプローチと向き合えないOLの姿が描かれています。
あらすじ
中学時代からの片思いを引きずる良香は、そのせいで恋愛経験がない26歳のOLです。
良香はあるとき同期の「二」に告白されます。しかし片思いの相手「イチ」のことを忘れられず、さらに良香は二のことが全く好きではないため、あいまいな態度で接して返事をしません。
そんなとき同窓会でイチと再会した良香は、イチへの思いを再確認するのでした。恋焦がれているものの良香に全く興味を示さないイチと、一途に好意を向けてくれるものの良香自身が全く好きになれない二の間で、良香は揺れ動きます。
感想
イチとニの違いを一言で表すと、聖と俗になると言えます。
「私のお星さまは、イチ」と表現されているように、聖なるイチは理想であり、幻想であり、だからこそ手が届かない存在です。逆に二は、俗っぽくて大衆的で、お手頃で庶民的…というイメージが付きまとうような存在です。
うっとりするような甘美やメロドラマのように情緒的な気持ちを興させる聖なるイチと、ロマンチックさを1ミリも感じさせないものの親近感はピカイチの俗な二。
手の届かない幻像か、お手頃な実像か。『勝手にふるえてろ』は、1人の女性が目をさます物語とも言えそうです。
『インストール』
著者 | 綿矢りさ(わたや りさ) |
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発表年 | 2001年 |
発表形態 | 雑誌掲載 |
ジャンル | 短編小説 |
テーマ | 生まれ変わる |
『インストール』は、2001年に文芸雑誌『文藝』(冬号)で発表された綿矢りさの短編小説です。学校生活や受験勉強からドロップアウトした女子高生が、小学生とパソコンを使って怪しい仕事をする中で、現実の世界を見つめ直す様子が描かれています。
あらすじ
学校になじめず登校拒否児になった朝子は、部屋の物をすべて捨てました。それを見た小学生のかずよしは、ゴミの山にあった壊れたコンピューターに目を付け、持ち帰ります。
後日かずよしの家を訪れた朝子は、かずよしがコンピューターを使えるようにしたことを知りました。かずよしは、朝子にコンピューターを使った風俗チャットの仕事を依頼し、朝子はチャットレディとして働き始めます。
感想
『インストール』の表の物語は、現実の世界からネットの世界に飛び込んだ女子高生が、ネット世界の空虚さと比較したときの現実世界の濃密さを感じ、再び現実世界に戻っていくというものです。
一方で、裏の物語として「母親との歩み寄り」があると思いました。朝子は、両親の離婚ののちに母親と2人で暮らしていますが、母親は朝子に無頓着で、朝子の登校拒否にも気づいかないほどです。
直接触れられていませんが、朝子と母親の間には、心理的な壁があることが読み取れます。
しかし、ネットの世界の住人になりつつあり、テンプレのメッセージを送って機械のようにになっていた朝子の心を、母親はかき乱しました。そして、言葉を自力で紡いで母親と会話した朝子は、現実の世界に戻っていきます。
2人の間の壁が取り払われたわけではなさそうですが、母親はめったに見せない涙を朝子の前で見せましたし、しかもそれは朝子のために流した涙でした。正面からぶつかったこの母娘は、今後和解に向けて動き出すのではないかと思いました。
中級編
「代表作一通り読んで、もっと他の作品も読んでみたくなった!」という方向けに、定番からは少しそれた作品をご紹介します。
『仲良くしようか』
著者 | 綿矢りさ(わたや りさ) |
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発表年 | 2012年 |
発表形態 | 雑誌掲載 |
ジャンル | 短編小説 |
テーマ | 夢、死、性、食 |
『仲良くしようか』は、2012年に文芸雑誌『文學界』(7月号)で発表された綿矢りさの短編小説です。さまざまな切り口から、語り手が観察した世界がつづられています。
あらすじ
『仲良くしようか』に筋らしい筋はなく、物語は場面を目まぐるしく変えながら進んでいきます。「私」による一人称の語りで、一筆書きのようなあやふやな人物が出入りする形で構成されています。
感想
『仲良くしようか』に登場する食にまつわるシーンには、異様な不気味さがあります。自身の食事と蛙の食事を重ねていたり、中華料理を「テーブルの大皿にうずたかく盛られた魂」と表現していたり、「食」がいかにも悪いものというように描かれています。
そのため『仲良くしようか』において食事は負のイメージが付与されていると思いました。
しかし、「私」は最後に登場する女の子に対して「朝ごはん食べた?」と声をかけました。本作において、女の子が出てくる場面には明らかにそれまでとは違う空気が漂っており、物事が明るく、前向きに描かれています。
「朝ごはん食べた?」という発言には、単純に女の子のこと気遣う裏表のない素直な気持ちが表れています。『仲良くしようか』における食は、何を食べるかではなく誰と食べるかでそのイメージが変化すると思いました。
『You can keep it.』
著者 | 綿矢りさ(わたや りさ) |
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発表年 | 2001年 |
発表形態 | 書き下ろし |
ジャンル | 短編小説 |
テーマ | 孤独 |
『You can keep it.』は、2001年に綿矢りさによって書き下ろされた短編小説です。物をあげることで人と繋がろうとする大学生が、初めてそうした考えなしに付き合いたいという人に出会う様子が描かれています。
あらすじ
大学1年生の城島は、友人に物をあげる癖があります。これは、城島なりの処世術です。友人は物を求めて城島のもとにやって来ます。
城島はそれで良いと思っていましたが、意中の相手・綾香には、初めて「高価なものではなくちょっとした物を手渡したい」と思います。
そこで、城島は海外に行ったことがないにもかかわらず、「インド土産」と嘘をついてインドの絵葉書を綾香に渡したのでした。
感想
城島は、一見気前の良い人に見えて、実はいじめられることを恐れている人物です。そしてその反面、他人よりも優位に立っていたいという願望の持ち主です。この部分が、利己的で汚くて非常に人間的だと思いました。
『You can keep it.』を読んでいて真っ先に思い浮かんだのは、太宰治の小説です。太宰の作品には、心理戦や駆け引き、一筋縄ではいかない煩雑な人間関係が描かれている作品があり、実際に太宰はそうしたものに心を悩ませた人物です。
このような小説は、あまりにもリアルで読んでると息苦しくなってくることがあります。しかし、その見たくない人間の嫌な部分をあえて見つめて赤裸々に描写するという点で、太宰作品と本作には共通点があると思いました。
最後に
今回は、綿矢りさのおすすめの本を5冊ご紹介しました。
ぜひ読んでみて下さい!