純文学の書評

【樋口一葉】『うつせみ』のあらすじ・内容解説・感想

蝉(せみ)の抜け殻を表す単語がタイトルになっている『うつせみ』。

今回は、樋口一葉『うつせみ』のあらすじと内容解説、感想をご紹介します!

『うつせみ』の作品概要

著者樋口一葉(ひぐち いちよう)
発表年1895年
発表形態新聞掲載
ジャンル短編小説
テーマ狂気

『うつせみ』は、1895年に読売新聞(8月27~31日)で連載された樋口一葉の短編小説です。狂った女性が引っ越してくる様子が描かれています。Kindle版は無料¥0で読むことができます。

著者:樋口一葉について

  • 職業女流作家
  • 17歳で家を継ぎ、借金まみれの生活を送った
  • 「奇蹟の14か月」に名作を発表
  • 25歳で死去

樋口一葉は、近代以降初めて作家を仕事にした女性です。美貌と文才を兼ね備えていたので、男社会の文壇(文学関係者のコミュニティ)ではマドンナ的存在でした。

父の死によって17歳で家を継ぐことになり、父が残した多額の借金を背負いました。「奇蹟の14か月」という死ぬ間際の期間に、『大つごもり』『たけくらべ』『十三夜』などの歴史に残る名作を発表したのち、肺結核によって25歳で亡くなりました。

五千円札の人「樋口一葉」ってどんな人?意外なエピソードやお札になった理由も解説「5千円札の人」として誰もが知る樋口一葉ですが、彼女の人生について知っている人はどれくらいいるでしょうか?実は、借金返済のために一生を費...

『うつせみ』のあらすじ

木々が茂ったへんぴな場所に、一軒の家がありました。そこに引っ越してきたのは、顔色の悪い雪子という女性でした。雪子の精神は安定しておらず、急に発狂することもしばしばです。どうやら、雪子は男性関係のトラブルを抱えていたようです。

登場人物紹介

雪子(せつこ)

名家の18歳の娘。精神を病んでしまい、使用人と家を転々としている。

正雄(まさお)

雪子のいいなずけ。

植村(うえむら)

雪子が正雄と婚約していることを知らずに、雪子に恋をしてしまった男。

『うつせみ』の内容

この先、樋口一葉『うつせみ』の内容を冒頭から結末まで解説しています。ネタバレを含んでいるためご注意ください。

一言で言うと

悲恋ののちに狂った女

狂人・雪子

木が生い茂った庭がある家に、使用人に支えられるように血の気のない女がやって来ました。彼女は雪子といい、18歳の名家の娘です。雪子は気が狂っていたので、使用人の男と家を転々としながら生きていました。

雪子は、機嫌の良いときは人形のようにおとなしくしていますが、一度機嫌を損ねると大泣きし、「私もあとから行きます」「植村さん、どこへ行ってしまうの」と叫ぶのでした。

狂人になった理由

雪子は名家の娘であるため、世間体を考えると入院ができず、引っ越しを繰り返しています。雪子がこんな風になってしまったのには、理由があります。

雪子には、正雄といういいなずけがいました。しかし、それを知らずに植村という男が雪子と恋をしてしまったため、植村は自殺してしまったのです。植村を愛していた雪子は、そこからおかしくなってしまいました。

8月の半ばごろから、雪子は発狂することが増え、一睡もしなくなりました。目はくぼみ、頬はこけ、まるで鬼のようです。両親は雪子が死なないことを祈っています。

『うつせみ』の解説

「うつせみ」という言葉

「うつせみ」は、一般には「空蝉」と書いて、蝉そのもののことを言います。また、蝉の抜け殻やその短命さと関連付いて、「はかない」「むなしい」というイメージを持つ言葉です。

しかし、『万葉集』の時代までさかのぼると、その意味は現在とは異なっていることがわかります。古代の「うつせみ(うつそみ)」は、「この世」「この世の人」を表す言葉でした。

「うつしみ(うつそみ)」という言葉が、中古・中世(平安時代~安土桃山時代)に「空蝉(うつせみ)」と変化し、近世(江戸時代)に「現身(うつしみ)」と変化し、意味も現代のものに変わったのでした。

内藤 明「日本人の身体認識と人間観-「うつしみ」と「うつせみ」をめぐって-」(『早稻田人文自然科學研究』1994年10月)

『うつせみ』の感想

ユニークな形式

「情報量が少ない」というのが正直な感想です。5章立てですが、雪子の周辺の人々の発言から節子の姿を推測するという形式なので、雪子の内面が全く読み取れません。

「狂人の考えている事は分からない」という理由なのかもしれませんが、それなら気が狂う前の雪子を登場させて、その視点から植村と正雄の間に挟まれて苦しむところを見てみたかったです。

 

雪子の心情が語られないので、なかなか感情移入がしずらいと感じてしまいました。ただ、「周りの人が主人公を語ることで、主人公像が浮かぶ」という小説はあまり見たことがありません。

もう少し雪子の人物像を具体的にイメージできる形式にすれば、他にはないユニークな形式の作品になったのではないかと思います。

最後に

今回は、樋口一葉『うつせみ』のあらすじと内容解説・感想をご紹介しました。

分量が少なく、挑戦しやすい作品なのでぜひ読んでみて下さい!

↑Kindle版は無料¥0で読むことができます。

ABOUT ME
yuka
「純文学を身近なものに」がモットーの社会人。谷崎潤一郎と出会ってから食への興味が倍増し、江戸川乱歩と出会ってから推理小説嫌いを克服。将来の夢は本棚に住むこと!
あわせて読みたい

COMMENT

メールアドレスが公開されることはありません。 が付いている欄は必須項目です