『三四郎』『それから』『門』は、漱石の前期三部作とされている作品です。『門』は『それから』の続編として読まれます。
今回は、夏目漱石『門』のあらすじと内容解説、感想をご紹介します!
Contents
『門』の作品概要
著者 | 夏目漱石(なつめ そうせき) |
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発表年 | 1910年 |
発表形態 | 新聞掲載 |
ジャンル | 長編小説 |
テーマ | 略奪愛 |
『門』は、1910年に朝日新聞(3月1日~6月12日)で連載された夏目漱石の長編小説です。親友の妻と結婚した主人公が、罪悪感にさいなまれる様子が描かれています。
『三四郎』『それから』に続く、前期三部作最後の作品です。映画化や舞台化はされていません。
著者:夏目漱石について
- 芥川を発掘
- 森鷗外のライバル
- ロンドンに留学するも、精神を病んで帰国
- 教師、大学教授を経て新聞社に入社
夏目漱石は、当時大学生だった芥川龍之介の『鼻』を絶賛しました。芥川はそれによって文壇デビューを果たしました。また、森鷗外は執筆活動を中断していた時期がありましたが、漱石を意識して執筆を再開したという話が残っています。
漱石は、東大を卒業後に教師や大学教授を経て政府からロンドン留学を命じられます。しかし、現地の雰囲気に上手くなじめずに精神を病んでしまったため、帰国を余儀なくされました。
帰国後、漱石は朝日新聞の専属作家(朝日新聞で小説を連載する小説家)となりました。当時多くの新聞社からオファーが来ていましたが、その中で朝日新聞が提示した月給が一番高かったため、漱石は朝日新聞に入社しました。
また、漱石は造語を多く用いました。漱石の造語で、今日一般的に使用されている言葉には、「浪漫(ロマン)」「沢山(たくさん)」などがあります。
他にも、「高等遊民(高等教育を受けたにもかかわらず、仕事をしないで過ごす人のこと)」「低徊趣味(ていかいしゅみ。世俗的な気持ちを離れて、余裕を持って物事に触れようとする趣向)」があります。
漱石の門人・門下生には、寺田寅彦・和辻哲郎・芥川龍之介・久米正雄・松岡譲などがいました。漱石の作品は、国外でも評価されています。
『門』のあらすじ
京都で大学生活を送っていた宗助は、親友・安井の妻であった御米に恋をしてしまいます。2人は結ばれた後に東京で暮らし始めました。ある時、隣人の坂井と親しくなった安井は、安井の思わぬ消息を知るのでした。
登場人物紹介
宗助(そうすけ)
主人公。親友から妻を得たことに後ろめたさを感じ、崖の下にある家でひっそりと暮らしている。
御米(およね)
宗助の妻。かつては安井の内縁の妻だった。
安井(やすい)
宗助の元友人。御米を宗助に奪われ、姿を消す。
坂井(さかい)
古道具屋の主人。裕福な家庭で、3人の子供とにぎやかに暮らしている。
『門』の内容
この先、夏目漱石『門』の内容を冒頭から結末まで解説しています。ネタバレを含んでいるためご注意ください。
一言で言うと
『それから』のそれから
坂井との交流
役所で働いている宗助は、妻の御米(およね)と地味な生活を送っていました。安月給のため、裕福とは言いがたい環境です。そんな時、宗助は叔父が亡くなったことを知ります。
父親と母親に先立たれていた宗助は、叔父に10個下の弟の小六(ころく)を預けていました。そして、宗助は小六を引き取らなければならなくなります。
また、叔母と宗助は遺産相続の話をしますが、彼女に「お前は『あんなこと』をしでかしたのだから、一文も得る権利はない」と言われてしまいます。
小六の世話を引き受けた宗助は、父親の形見のびょうぶを売ってお金に変えました。びょうぶを売った古道具屋の主人は、坂井と言って3人の子供や使用人とにぎやかに暮らす、裕福な家庭の亭主でした。
しかしあるとき、坂井家に泥棒が入ります。そして泥棒は、坂井家から盗んだ立派な箱をうっかり宗助の家の庭に落としてしまいました。翌日、宗助がそれを坂井の元に届けたことをきっかけに、2人の交流が始まります。
罪
宗助と御米は、自然と坂井家の話をすることが増えました。そして、話題は子供のことに移ります。御米は3回妊娠していますが、3回とも上手く育てられなかったことに引け目を感じているのでした。
そしてその原因を占い師に聞いたところ、「かつて人に対して済まないことをしたからだ」と言われたのだと言います。
大学時代、宗助には安井という友人がいました。ある日、宗助が安井の家を訪ねると、大人しい女性が出迎えてくれます。彼女は、実は安井の妻だったのですが、安井は彼女を妹だと宗助に紹介します。
そのあと宗助は、彼女とただならぬ関係に発展します。その女性こそが御米だったのです。そして、御米との関係がバレた宗助は、人々から非難されて大学を中退せざるを得なくなりました。妻を奪われた安井は行方をくらまして消息不明になってしまいました。
安井との再会?
正月の挨拶に坂井家を訪ねた宗助は、思いもよらない誘いを受けます。なんと、モンゴルで事業をしている坂井の弟と、その友人である安井という人物と食事に行こうと言われたのです。
やがて、安井を連れて坂井の弟が帰国したことを知ると、宗助は恐怖でいてもたってもいられなくなり、鎌倉の円覚寺に座禅に行くことにします。
びくびくしながら座禅から帰り、御米と話をしていると、彼女は安井が来ていることを知らない様子でした。坂井に聞くと、2人はもうすでにモンゴルに帰って、しばらく戻らないのだと言います。
それを聞いて、宗助はひとまず安心しました。そして、坂井は「小六をうちに置いてやる」と言ってくれます。さらに宗助は、役所の人員整理の対象から外れたことに加えて昇級することができました。
それを受けて、「本当にありがたいわね。ようやくのこと春になって」と言う御米に対して、宗助は「うん、でもまたじきに冬になるよ」と下を向きながら答えるのでした。
『門』の解説
最後の言葉の意味は?
最後、宗助と御米は安井と会わずに済んだり、坂井が急に小六の面倒を見てくれることになったり、宗助が昇進したりと立て続けに幸運に恵まれます。
御米は、これに対して「春が来た」と喜びますが、宗助は「じきに冬が来る」と言います。2人のこの温度差は、何によるものなのでしょうか?
答えは、未来が見えているか見えていないかです。宗助は、今回の安井の帰国の件で、彼の存在を強く意識しました。そして、今後も安井の影におびえながら生きていかなければならないことを悟ります。
一方で、御米はそんなことを考えずに目先の幸運を喜んでいるのです。これからの夫婦の未来は、そんなに明るくないことを示しているラストです。
『門』の感想
前期三部作の関係
『三四郎』で美禰子(みねこ)を手に入れることのできなかった三四郎の人物像が、『それから』の代助(だいすけ)に受け継がれます。
そして、代助は三千代(みちよ)を平岡(ひらおか)から奪うことに成功します。その後の2人の様子が、『門』で宗助と御米に投影されているのです。
『それから』があまりにも希望に満ちた終わり方をしたので、『門』はどうなるのだろうと思っていたのですが、ものすごく暗い話でした。
理由として、漱石の体調があまり良くなかったことが関係しているのではないかと思いました。作家は体調が悪くなると、自然と暗い話を書くからです。
漱石は、『門』を書き終えた後に持病の胃かいようを悪化させて、生死をさまようほど体調を崩します。このことが、『門』の作風に影響を与えているのだと思います。
最後に
今回は、夏目漱石『門』のあらすじと内容解説・感想をご紹介しました。
前期三部作は、恋愛に主眼が置かれているので読んでいてはらはらします。個人的に一番面白いと感じるのは『三四郎』です。『三四郎』『それから』『門』は、漱石を理解するのに重要な作品になるので必読です!青空文庫でも読めます。
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