純文学の書評

【泉鏡花】『高野聖』のあらすじ・内容解説・感想

幽霊や悪魔を描く幻想小説の傑作とされる『高野聖(こうやひじり)』。高野聖は、「高野山の僧」という意味です。

今回は、泉鏡花『高野聖』のあらすじと内容解説、感想をご紹介します!

『高野聖』の作品概要

著者泉鏡花(いずみ きょうか)
発表年1900年
発表形態雑誌掲載
ジャンル短編小説
テーマ怪奇

『高野聖』は、1900年に文芸雑誌『新小説』(第5年第3巻)で発表された泉鏡花の短編小説です。高野山の僧が体験した、妖艶な美女との超現実的で摩訶不思議な話が語られています。

鏡花の出世作で、幻想小説(幽霊や悪魔などの超自然の世界を描いた文学)の名作とされています。中国の小説や、鏡花の友人の体験談が元になっています。Kindle版は無料¥0で読むことができます。

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『高野聖』は、角川文庫から出版されています。角川文庫のこのシリーズは、着物の生地のような装丁がとても綺麗です。

著者:泉鏡花について

  • 金沢三大文豪のうちの1人
  • 幻想文学作家
  • 犬や蛇が嫌い
  • 極度の潔癖症

泉鏡花は、金沢三大文豪(泉鏡花、徳田秋声、室生犀星)の1人で、幻想文学の代表作家です。『夜行巡査』『外科室』『高野聖』が有名です。犬や蛇が嫌いで、作品にしばしば登場します。極度の潔癖症で、皆でつつく鍋などは苦手だったと言われています。

『高野聖』のあらすじ

旅の途中で僧と出会った「私」は、僧が経験した不思議な話を聞きます。僧は、ある茶屋で薬屋と会話をしました。薬屋は先に店を出ましたが、薬屋が向かっていたのは危険が潜む道でした。僧は、薬屋にそれを知らせようと薬屋の跡を追います。

そのうち、僧は1軒の家の前にたどり着きます。そこでは、美しい女が少年の世話をしていました。僧はその女に惹かれますが、実はその女はとんでもない秘密を抱えていたのでした。

登場人物紹介

主人公。旅の途中に出会った僧と話をする。

高野山の僧。主人公に不思議な体験を聞かせる。

山奥の小屋に住んでいる美しい女。口が利けない病気の少年を世話している。

『高野聖』の内容

この先、泉鏡花『高野聖』の内容を冒頭から結末まで解説しています。ネタバレを含んでいるためご注意ください。

一言で言うと

僧の奇妙な体験談

僧と薬売り

主人公のは、旅の最中に出会ったと1泊することになりました。彼は、高野山に籍を置く45~46歳の僧でした。私は、彼が経験した不思議な話を聞かせてもらいます。

 

僧は旅の途中、1人の薬売りと出会います。2人は分かれ道にたどり着くと、薬売りは迷わず右の道を進んでいきました。僧が現地の人に道をたずねると、「右の道には深い川があるから、遠回りでも左から行った方がいい」と言いました。

それを聞いた僧は、薬売りを連れ戻そうと右の道を進みました。ところが、どんなに進んでも薬売りには追いつけません。

それどころか、大嫌いな蛇に遭遇したり、9センチくらいの大きなヒルが降ってきたりと散々な目に遭います。それでも僧は進んでいきました。

美しい女

疲れ果てた僧は、馬の鳴き声に気づきます。そして1軒の家にたどり着いて声をかけると、丸々と太った醜い少年が何も言わずにこちらを見ています。もう一度呼んでみると、奥から美しい女性と老人が出てきました。

彼女は、僧を快く泊めてくれました。そしてヒルの雨に襲われたことを話すと、女は「川で流せば良いでしょう」と川に案内します。

女は、さらさらと水をかけて僧の身体を洗います。僧は、あまりの気持ちよさに眠ってしまいそうになります。気がつくと、女は着物を脱ぎ捨てていました。僧は、肉付きの良いふっくらとした肌を見つめます。

 

すると、彼女をめがけて大きなこうもりや猿が飛びついてきます。女は「畜生、お客様が見えないかい」と言いながら、彼らを追い払います。僧は、「まるでじゃれる子供と母親のようだ」と思いながら、何となく不気味なものを感じました。

女の正体

家に戻ると、女は「あの醜い少年が医者でも直せない病気にかかっていて、話すことも歩くこともできない」と僧に言いました。

そして夜になると、羊や鳥、牛など様々な動物の気配に気づき、僧は目を覚ましました。「お客様があるじゃないか」と女が言う声も聞こえます。僧が念仏を唱えると、あたりはひっそりと静まり返りました。

 

翌日、僧は旅を続けるべく出発しました。しかし、歩いていても女のことばかり考えてしまい、引き返したくなりました。そんな時、馬を売りに出ていた、女の家の老人と出くわします。そして、僧は思いもよらない事実を教えられました。

なんと女には、男を動物に変えてしまう不思議な力があったのです。老人に売られた馬は、薬売りだったのでした。そして昨晩家の周りで騒いでいた獣たちも、みな女に近づいたせいで姿を変えられてしまった人間の男だったのでした。

僧は恐れおののき、急いでその場を離れて次の里へ向かいました。

『高野聖』の解説

女の表象

文学で描かれる女性は、包み込む優しさを持つ聖母性と、相手を食い物にするような娼婦性を兼ね備えている場合が多いです。

「美しいばらには棘がある」と言いますが、この両面性こそが魅力なのではないかと思います(聖母性は、娼婦性と掛け合わさることで魅力を増すということ。逆もしかり)。

『高野聖』に登場する女は、男を獣に変えてしまう力を持っているため、本当の意味で「魔性」の女です。

しかし、女が少年を世話する様子は非常に健気で、純粋そうに見えます。この無垢な姿の裏にとんでもない魔性を隠し持っていると考えるだけで、ますます女が魅了的に感じられました。

『高野聖』の感想

潔癖の鏡花

泉鏡花は、質感のある文章を書く作家です。

呆気に取られて見る見る内に、下の方から縮みながら、ぶくぶくと太って行くのは生血
をしたたかに吸込むせいで、濁った黒い滑らかな肌に茶褐色の縞をもった、疣胡瓜のような血を取る動物、こいつは蛭じゃよ。

引用は、僧がヒルに襲われたシーンです。ヒルが血を飲んでふくれていく様子や、そのつるつるの肌に模様が入っているのを想像しただけで鳥肌が立ちます。彼の文章は、こうしたリアルを写し取るのに適していると思います。

また、泉鏡花は極度の潔癖症で、鍋を囲んだり回し飲みができないようなタイプの人です。そういう人には、頭の中に目に見えない菌が想像されるのだと思います。

鏡花はその能力に長けていたため、本作のような超自然的な作品が書かれたのではないかと思いました。

『高野聖』の現代語訳

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『高野聖』の現代語訳は、角川書店から出版されています。秋山稔氏(あきやま みのる。金沢学院大学学長・泉鏡花記念館館長)が監修と解説を担当した、読みごたえのある1冊です。

最後に

今回は、泉鏡花『高野聖』のあらすじと内容解説・感想をご紹介しました。

僧が主人公に語るスタイルなので、昔話を読んでいるような気分になる作品です。ぜひ読んでみて下さい!

↑Kindle版は無料¥0で読むことができます。

ABOUT ME
yuka
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「純文学を身近なものに」がモットーの社会人。谷崎潤一郎と出会ってから食への興味が倍増し、江戸川乱歩と出会ってから推理小説嫌いを克服。将来の夢は本棚に住むこと!
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