三島が20代の総決算として書き上げた『禁色(きんじき)』。『仮面の告白』と同じく男色がテーマの作品です。
今回は、三島由紀夫『禁色』のあらすじと内容解説、感想をご紹介します!
Contents
『禁色』の作品概要
著者 | 三島由紀夫(みしま ゆきお) |
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発表年 | 1951年~1953年 |
発表形態 | 雑誌掲載 |
ジャンル | 長編小説 |
テーマ | 復讐 |
『禁色』は、1951年に文芸雑誌『群像』(1月号~10月号)、1952年~1953年に文芸雑誌『文學界』(1952年8月号~1953年8月号)で連載された三島由紀夫の長編小説です
女性に裏切られ続けた老作家が、同性愛者の美青年を利用して女性たちに復讐する物語です。三島は生前に映画化の構想を練っていましたが、映画化は実現しませんでした。
著者:三島由紀夫について
- 小説家、政治活動家
- ノーベル文学賞候補になった
- 代表作は『仮面の告白』
- 割腹(かっぷく)自殺した
三島由紀夫は、東大法学部を卒業後に財務省に入省したエリートでしたが、のちに小説家に転向します。ノーベル文学賞候補になったこともあり、海外でも広く認められた作家です。同性愛をテーマにした『仮面の告白』で一躍有名になりました。
皇国主義者の三島は、民兵組織「楯の会」を結成し、自衛隊の駐屯地で演説をした後に割腹自殺をしました。
『禁色』のあらすじ
老作家の俊輔は、過去に数人の女性から裏切られた経験がありました。俊輔は、あるとき伊豆で悠一という美青年と出会います。悠一は、俊輔が思いを寄せていた康子のいいなづけでしたが、同性愛者の俊輔は結婚に前向きではありません。
それを知った俊輔は、悠一と結託して過去に自身を裏切った女性たちへの復讐を企てるのでした。
登場人物紹介
俊輔(しゅんすけ)
65歳の老作家。3度の離婚を経験しており、自分を裏切った女性たちへの復讐に悠一を利用する。
悠一(ゆういち)
22歳の同性愛者の美青年。俊輔の強い勧めで結婚を決意し、彼の命令通りに女性たちを誘惑する。
康子(やすこ)
19歳の美少女。俊輔の復讐相手の1人。悠一と結婚する。
鏑木信孝(かぶらぎ のぶたか)
43歳。元華族の実業家であり、同性愛者。
鏑木(かぶらぎ)夫人
41歳。信孝と組んで俊輔から現金を巻き上げた。俊輔の復讐相手の1人。
『禁色』の内容
この先、三島由紀夫『禁色』の内容を冒頭から結末まで解説しています。ネタバレを含んでいるためご注意ください。
一言で言うと
操り人形で復讐
俊輔と悠一の出会い
俊輔は、65歳の作家です。社会的に高い地位にいましたが、これまで想いを寄せた女性たちからことごとく裏切られ続けてきたという経歴の持ち主です。
しかし、懲りることなく現在も康子という美女を追って、伊豆半島南部の海岸へ来ていました。俊輔は、そこである美青年と出会います。
ギリシア彫刻のようにしなやかな肉体を持ったその青年は悠一という名前で、彼は康子のいいなずけでした。しかし、同性愛者の悠一は結婚をためらっており、それを俊輔に打ち明けます。
そこで俊輔は、悠一が女性を好きになれない美青年ということを利用して、今まで自分を傷つけた女たちへ復讐することを思いつきます。
俊輔は、悠一の母の療養費を出す代わりに、自分の指示通りに動くことを約束させました。そして、康子も俊輔の復讐の対象だったため、俊輔は悠一に康子との結婚を強くすすめます。
悠一の遊び
俊輔は、かつて自分から現金を巻き上げた鏑木夫人や元妻に悠一を引き合わせ、彼女たちを翻弄させます。
悠一は、俊輔に操られるままに女性たちをもてあそぶ一方で、ゲイバーで知り合った少年や男性たちとの交流を楽しみます。
ある時、悠一はそこで鏑木信孝と出会います。悠一は信孝に誘惑され、彼の愛人となりました。信孝の秘書として家に出入りするようになった悠一は、とうとう鏑木夫人に信孝との不倫現場を見られてしまいます。
鏑木夫人は、衝撃を受けて消息を絶ってしまいました。信孝と縁を切った悠一は、今度は旧友の河田弥一郎という人物と愛人関係を結びます。
一方で、悠一は俊輔の指示で彼の元妻を騙し、傷つけることに成功しました。そして俊輔は、自分が悠一に恋をしていることに気づきます。
自殺
やがて、悠一の妻の康子が出産しました。立ち会った悠一は、自分の子供を見て徐々に男性と愛人関係を結ぶことに退屈するようになります。
そんな時、悠一は動物園で知り合った稔(みのる)という少年と仲良くなりますが、彼を可愛がる養父の嫉妬により、悠一は同性愛者であることを母や康子にばらされてしまいます。
追い詰められた悠一は、京都にいる鏑木夫人に助けを求めました。悠一に母性的な愛を抱くようになっていた鏑木夫人は、悠一のために力を尽くして危機を救います。
そして稔や河田と絶縁した悠一は、俊輔の支配から逃れようと俊輔のもとを訪れます。そうなることを予想していた俊輔は、「全財産を譲ろう」と言い遺し、悠一のそばで眠るように自殺しました。
『禁色』の解説
疑似親子
当初、悠一は俊輔に従順で、俊輔が「主」で悠一が「従」という明確な上下関係がありました。これは、俊輔が精神上の父親で、悠一が精神上の息子と言う風に見ることができます。
しかし、悠一が「現実の存在になりたいんです」と主張し始めたころから、その関係は崩れていきます。
引き金となったのは、鏑木夫人の存在です。鏑木夫人は、夫を取られたにもかかわらず、回収的に悠一に母性を持つようになりました。このことから、鏑木夫人は悠一の精神的な母親と言うことができます。
母親の登場によって俊輔と悠一の関係は崩れ、最終的に立場は逆転し、俊輔は自殺をするに至ったのでした。
三島由紀夫「禁色」論–記紀への遡及」(『広島女学院大学日本文学』2009年7月)
『禁色』の感想
今を生きる人
「こんなに都合よく同性愛者が現れるもんか」というつっこみは置いておいて、非常に面白い小説だと思いました。
文庫本で570ページ以上になる大作なのですが、そのほとんどが悠一と他の男性のお遊びというのも興味深いです。
科学の発展や戦争を終えて、世の中には「1分1秒を味わいつくそう」「今この瞬間が楽しければいい」というような究極の現在志向の人がいますが、これもその一環なのかと思いました。
最後に
今回は、三島由紀夫『禁色』のあらすじと内容解説・感想をご紹介しました。
センセーショナルな内容であるため、『仮面の告白』と同様、同時代の評論家からは高い評価は受けられませんでした。ですが、こういう話題が当たり前に受け入れられるようになった現代では、再評価されている作品です。ぜひ読んでみて下さい!