3分クッキングを思い出すタイトルです。キューピーというキャラクターは、100年以上前にアメリカで生まれ、大正期に日本に上陸しました。本作は、戦前まで続くキューピーブームを引き起こした、キューピー人形を中心に展開される小説です。
今回は、夢野久作『キューピー』のあらすじと内容解説、感想をご紹介します!
Contents
『キューピー』の作品概要
著者 | 夢野久作(ゆめの きゅうさく) |
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発表年 | 1922年 |
発表形態 | 新聞掲載 |
ジャンル | 短編小説 |
テーマ | ー |
キューピーの失踪をきっかけに、おもちゃたちが奔走する物語です。1911年に「九州日報」という新聞に掲載されました(久作は福岡出身)。
著者:夢野久作について
- 日本の探偵小説三大奇書『ドグラ・マグラ』の著者
- 書簡体小説を書いたり、独白体を用いることが多い
- 小説家、詩人、禅僧、陸軍の軍人、郵便局長という経歴を持つ
夢野久作は、奇抜・幻惑という言葉がぴったりな人物で、久作の作品を読めば「あ、この人なんか違う」と直感で分かるような作家です。三大奇書に分類され、「読むと精神に異常をきたす」という衝撃的な広告文がつけられた『ドグラマグラ』を書きました。
書簡体(手紙の連なりで展開していく手法)や、独白体(主人公が1人でつぶやくように語る手法)をよく用います。様々な職業を経験した特異な作家です。
『キューピー』のあらすじ
アメリカ生まれのキューピーが行方不明になり、おもちゃたちは捜索に向かいます。日本のダルマとドイツの兵隊が真っ先に出発し、後からフランスの道化師とイギリスのねむり人形が追いかけます。
ダルマと兵隊は、三毛猫から有力な情報を得て、キューピーのもとに向かいます。
登場人物紹介
おもちゃたち
キューピーと同じおもちゃ箱で暮らしている。行方不明のキューピーを捜索する。
三毛猫
飼われている猫。「キューピーを連れ去った」とおもちゃたちから詰められる。
ねずみ
三毛猫がキューピーを連れ去ったと証言する。
『キューピー』の内容
この先、夢野久作『キューピー』の内容を冒頭から結末まで解説しています。ネタバレを含んでいるためご注意ください。
一言で言うと
キューピー救出作戦
キューピーの捜索
アメリカ生まれのキューピーが行方不明になり、おもちゃ箱の中は大騒ぎです。おもちゃたちは、散り散りになって捜索を始めました。
ダルマさんは、ねずみが「三毛猫が持って行ったんだろう」と言ったのを聞きました。ダルマさんは、兵隊さんと一緒に三毛猫のところに向かいます。
しかし、三毛猫は「イイエ、ニャンにも知りません。ねずみが、私を追い出すためにそんなこと言ったのでしょう」と言いました。
発見
おもちゃたちが屋根裏部屋に行ってみると、キューピーはぺしゃんこにつぶれて泣いていました。おもちゃたちは、キューピーを連れて帰って膨らましてやりました。三毛猫は大きくなったあと、家中のねずみを捕って殺しました。
『キューピー』の解説
国名に注目
情報量が少ないのですが、できる限り分析してみようと思います。
アメリカ生まれのキューピーがいなくなったので、おもちゃ箱の中は大変なさわぎがはじまりました。日本のダルマさんが向う鉢巻でタワシ細工の熊に乗っていの一番に飛び出す。あとから独逸生まれのブリキの兵隊が木造りの自動車で駈け出す。仏蘭西生まれの道化人形は英国生まれのねむり人形と一緒にそのあとから走り出す。
冒頭のこの描写について、国名と一緒に人形が紹介されているのが肝かと思います。「アメリカ生まれのキューピー」を探しに、「いの一番に飛び出」したのは日本のダルマです。これは、アメリカの後ろについて回る、日本を揶揄(やゆ)した表現かと思いました。
日本の次に続いたのは、戦時中に日本と同盟を組んだこともあったドイツです。イギリスは、19世紀に「光栄ある孤立」を掲げたり、今も昔も他とは距離を置く傾向があるため、最後なのかと思いました(現在でも、イギリスはEUを離脱したりして、一歩引いている感じがあります)。
政治的な視点から見てみましたが、確証はありません。しかし、最初に発表された媒体が新聞なので、そういうメッセージが込められていた気もします。
日本のダルマとドイツの兵隊に比べて、動くのが遅かったフランスとイギリスの人形が、道化師(真面目ではない)とねむり人形(寝てる=やる気ない?)と表現されたことから、道化師とねむり人形はキューピー捜索にあまり前向きではないことが読み取れます。
ねずみの叫び
最後の一文は、「三毛猫はその後大きくなって、家中の鼠を皆捕って殺してしまいました」というものです。このことから、キューピー誘拐から数年経って、全てのねずみが殺されたことが分かります。
そこで、ねずみ目線で考えてみようと思います。ねずみは、キューピーの居場所を聞かれたとき「この頃この家へ来た小さな三毛猫が……」と言いました。つまり、ねずみの強敵が新しく投入されたということです。
もしかしたら、家の人はねずみ退治を目的として、猫を飼い始めたのかもしれません。いずれにせよ、ねずみはその猫を排除するか、一家で引っ越しをしなければなりません。ねずみはキューピーを使って猫をおとしいれようとしましたが、失敗してしまいました。
その後のことは書かれていませんが、もしねずみが猫退治を辞めなければ、その後もねずみの反撃は数年続いたはずです。しかし、ねずみが根絶やしにされたところを見ると、それらは全て失敗に終わっています。
『キューピー』は、このように「ねずみの生き残りをかけた壮絶な戦い」という読みもできると思いました。
『キューピー』の感想
読者が頑張る小説
同著『瓶詰地獄』のように、作者から物語の断片が与えられて、「あとは読者の解釈にお任せします」という感じの小説だと思いました。
キューピーは、体中がへこむまで暴力を受けたのに、ねずみには何の仕返しもしていないのが不思議でした(もしかしたら、仕返しをしたということが書かれてないだけかもしれません)。
「なぜ、誘拐されたのがキューピーでなければならなかったのか?」「なぜ、アメリカ・日本・ドイツ・フランス・イギリスの5か国なのか?」という風に、疑問はいくらでも湧いてきます。今後の研究に期待したいです。
最後に
今回は、夢野久作『キューピー』のあらすじと内容解説、感想をご紹介しました。
青空文庫にもあるのでぜひ読んでみて下さい!
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