『今昔物語(こんじゃくものがたり)』と『宇治拾遺物語(うじしゅういものがたり)』を参考に書かれた『鼻』。「人の不幸を笑う」という人間の心理が描かれています。
今回は、芥川龍之介『鼻』のあらすじと内容解説、感想をご紹介します!
Contents
『鼻』の作品概要
著者 | 芥川龍之介(あくたがわ りゅうのすけ) |
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発表年 | 1916年 |
発表形態 | 雑誌掲載 |
ジャンル | 短編小説 |
テーマ | 人間の醜い部分 |
『鼻』は、『今昔物語』(平安末期の説話集)の中の話が題材になっています。芥川作品の「王朝もの」のうちの1つです。1959年から数回にわたってテレビドラマ化されました。Kindle版は無料¥0で読むことができます。
『鼻』は、時代劇ギャグマンガを中心に描く桝田道也(ますだ みちや)さんによって漫画化されています。Kindleで読むことができます。
著者:芥川龍之介について
- 夏目漱石に『鼻』を評価され、学生にして文壇デビュー
- 堀辰雄と出会い、弟子として可愛がった
- 35歳で自殺
- 菊池寛は、芥川の死後「芥川賞」を設立
芥川龍之介は、東大在学中に夏目漱石に『鼻』を絶賛され、華々しくデビューしました。芥川は作家の室生犀星(むろう さいせい)から堀辰雄を紹介され、堀の面倒を見ます。堀は、芥川を実父のように慕いました。
しかし晩年は精神を病み、睡眠薬等の薬物を乱用して35歳で自殺してしまいます。
芥川とは学生時代からの友人で、文藝春秋社を設立した菊池寛は、芥川の死後「芥川龍之介賞」を設立しました。芥川の死は、上からの啓蒙をコンセプトとする近代文学の終焉(しゅうえん)と語られることが多いです。
『鼻』のあらすじ
池の尾の内供は、あごの下まで垂れさがる長い鼻を持っています。内供にとって長い鼻はコンプレックスで、内供の自尊心は傷つけられます。短くするためにできることをしてきましたが、鼻に変化は現れません。
そんなとき、弟子が鼻を短くする方法を教わってきました。喜んだ内供は、さっそく実践します。
登場人物紹介
禅智内供(ぜんちないぐ)
50歳を越えた主人公の僧。あごの下までぶら下がる長い鼻の持ち主。
『鼻』の内容
この先、芥川龍之介『鼻』の内容を冒頭から結末まで解説しています。ネタバレを含んでいるためご注意ください。
一言で言うと
人の不幸は蜜の味
変な鼻
平安時代。池の尾(現在の京都府)の僧である禅智内供は、縦に長い鼻を持っています。長さは15〜18センチほどで、あごの下までソーセージのようにぶら下がっています。
内供は、内心では鼻のことを気にしていましたが、それを他人に悟られないように、表面では気にしていないフリをしていました。
内供は、寺に通う人の中や、経典の中に自分と同じような鼻を持つ人を見つけて安心しようとしましたが、自分より長い鼻を持っている人を見つけることはできませんでした。
鼻を縮める方法
ある日、内供は医者から鼻を短くする方法を教えられ、さっそく試してみます。それは、鼻を茹でたあとに弟子に踏んでもらうというものでした。踏んでもらうと、鼻からは角栓が次々と出てきます。
弟子はそれをピンセットで抜き、再び鼻を茹でました。そして鏡を見た内供は驚きます。あごの下まで垂れていた鼻は縮み、上唇の上までに縮んでいたのです。
内供はとても喜びました。それからはことあるごとに鼻をなでて、短くなったことを確認して満足するのでした。
元通り
しかし数日後、内供は異変に気づきます。短くなった鼻を見て、笑う人が出始めたのです。内供は初め、自分の顔が変わったせいだと思いますが、 鼻が長かった頃よりも馬鹿にされているように感じるようになり、それは原因ではないと思いました。
そして、「人間は他人の不幸に同情するが、それを克服すると、他人はそれを物足りなく感じるようになり、その人を再び同じ不幸に陥れてみたくなるのだ」という結論に達します。
そのうち、内供は鼻を短くしたことを後悔するようになりました。ある夜、内供は鼻がむくんでいるのを感じました。そして朝起きると、鼻は元に戻っています。内供は、「もう自分を笑う者はいなくなる」と思いました。
『鼻』の解説
失恋がきっかけ
芥川は、時代が下ってから『鼻』を執筆時のことを回想し、「『羅生門』『鼻』は失恋の所産であり、その痛手から逃れるためになるべく現状と懸け離れた、なるべく愉快な小説が書きたかった」と述べています。
確かに、『鼻』はユーモアであふれています。あごまで垂れる鼻を持っている点ですでに面白いですし、それを大真面目に小さくしよう奮闘し、せっかく小さくなったのにまた元通りになったことを結局は喜んでいるという、非常に滑稽な物語です。
失恋がどれほど芥川の執筆に影響していたかは分かりませんが、その失恋のおかげで芥川の代表作が生まれたというのが興味深いです。
下野 孝文「「鼻」論 : 「羅生門」を媒介として」(『文獻探究』1988年3月)
『鼻』の感想
漱石に激賞された『鼻』
『鼻』の主題は「醜」だと思います。内供は自分より長い鼻の人を見つけて安心しようとしました。ここには、他人を見下して自分の価値を相対的に上げようとする、人間の汚い部分が現れていると感じたからです。
また、内供は人の目を気にしすぎるところがあります。せっかく鼻が小さくなったのに、内供は結局笑われることを気にして、小さくなった鼻を恨むようになります。
ここで、「他人が何と言おうと、自分は小さくなった鼻に自信を持っている」ということを示せれば、このような結末にはならなかったのでは?と思います。
また、本作は漱石に評価された作品です。彼は、人間のエゴを捉えた作品(『こころ』など)を多く書いている作家です。そのため、人間の汚い部分を描いた『鼻』が評価されたのだと思いました。
『鼻』の朗読音声
『鼻』の朗読音声は、YouTubeで聴くことができます。
『鼻』の研究論文
『鼻』の研究論文は、以下のリンクから確認できます。表示されている論文の情報を開いた後、「機関リポジトリ」「DOI」「J-STAGE」と書かれているボタンをクリックすると論文にアクセスできます。
最後に
今回は、芥川龍之介『鼻』のあらすじと内容解説・感想をご紹介しました。
芥川は、鼻を書いた当時はアマチュアの学生作家でしたが、これが漱石に評価されてプロ作家デビューを果たしました。そんな芥川の出世作を、ぜひ読んでみてください!
↑Kindle版は無料¥0で読むことができます。