『歯車』は、死の暗号や暗く不可解な雰囲気に包まれた不気味な小説です。
今回は、芥川龍之介『歯車』のあらすじと内容解説、感想をご紹介します!
Contents
『歯車』の作品概要
著者 | 芥川龍之介(あくたがわ りゅうのすけ) |
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発表年 | 1927年 |
発表形態 | 雑誌掲載 |
ジャンル | 短編小説 |
テーマ | 死の影 |
『歯車』は、1927年に雑誌『文藝春秋』で発表された芥川龍之介の短編小説です。芥川が自殺直前に見た不気味な幻想や妄想が描かれています。『河童』『或る阿呆の一生』と並ぶ、芥川の晩年の代表作です。Kindle版では無料¥0で読むことができます。
著者:芥川龍之介について
- 夏目漱石に『鼻』を評価され、学生にして文壇デビュー
- 堀辰雄と出会い、弟子として可愛がった
- 35歳で自殺
- 菊池寛は、芥川の死後「芥川賞」を設立
芥川龍之介は、東大在学中に夏目漱石に『鼻』を絶賛され、華々しくデビューしました。芥川は作家の室生犀星(むろう さいせい)から堀辰雄を紹介され、堀の面倒を見ます。堀は、芥川を実父のように慕いました。
しかし晩年は精神を病み、睡眠薬等の薬物を乱用して35歳で自殺してしまいます。
芥川とは学生時代からの友人で、文藝春秋社を設立した菊池寛は、芥川の死後「芥川龍之介賞」を設立しました。芥川の死は、上からの啓蒙をコンセプトとする近代文学の終焉(しゅうえん)と語られることが多いです。
『歯車』のあらすじ
主人公の僕は、知り合いの結婚披露宴に出席するために東京のホテルへ向かう途中、レインコートを着た幽霊の話を聞きます。その後、ホテルで執筆をしていた僕は、義兄がレインコートを着たまま列車に轢かれて亡くなったことを知り、不気味に感じました。
それからというもの、死を感じさせるような暗示が次々と現れ、僕は恐怖に逃げ惑います。そして、僕には半透明の歯車が見えるようになってしまうのでした。
登場人物紹介
僕
主人公。知人の結婚式に行く途中などに不吉なものを見る。歯車の幻影や頭痛に悩まされている。
N
僕の義兄。列車に轢かれて亡くなる。
妻
僕の妻。自身の父親の死を予感する。
『歯車』の内容
この先、芥川龍之介『歯車』の内容を冒頭から結末まで解説しています。ネタバレを含んでいるためご注意ください。
一言で言うと
死の空気
レインコート
知人の披露宴に向かっている主人公の僕は、鵠沼(くげぬま)から東京に行くために自動車で藤沢駅に向かっていました。自動車には理髪店の主人も乗り合わせていました。理髪店の主人は、僕にレインコートを着た幽霊の話をします。
僕は、そのときはそれを気にしていませんでしたが、藤沢駅の待合室に季節外れのレインコートを着た男が座ってるのを見て、不気味に思うのでした。
東京に着き、会場のホテルに向かった僕は、絶えず回る半透明の歯車を目にします。それは数を増やし、僕の視界を塞いでしまいました。同時に、僕は正体不明の頭痛に悩まされるのでした。
披露宴の晩餐会が終わる頃には頭痛は和らぎ、僕はホテルのロビーに向かいました。僕はそこでくつろぎますが、すぐ横の長いすにレインコートが掛かっていることに気づき、部屋に戻ります。
すると、僕の元には姪から電話が掛かってきました。話によると、姉の夫のNが列車に轢かれて亡くなったとのことでした。そして、Nはレインコートを着ていました。
タクシーの運転手
あるとき、僕は以前待合室でレインコートの男を見た停車場に行きました。僕は滞在予定の避暑地に行くためにタクシーを呼びましたが、運転手は古ぼけたレインコートを着ていました。
僕は運転手のことを見ないようにしていましたが、タクシーは葬式の列とすれ違います。避暑地についた僕は、不眠症と激しい幻聴に悩まされました。そして、僕は家に帰る決意をします。
死の予感
妻の実家を久しぶりに訪問した僕は、義母や妻たちと世間話をします。そのとき、僕の耳には激しい飛行機の音が聞こえてきました。鶏や犬も驚き、逃げ回ります。そして、僕は「なぜあの飛行機は僕の頭の上を通ったのだろう」と疑問に思いました。
散歩中に再び頭痛に襲われた僕は、家の2階で休んでいました。眼をつむると、まぶたの裏には銀色の羽や翼が見え始めました。眼を開くと見えなくなりますが、眼を閉じるとまた見えるようになります。
そこへ、妻がばたばたと音を立てて2階に上ってきて、途中で引き返してしまいました。僕が様子を見に行くと、妻は机に伏して震えながら「なんだかお父さんが死んでしまいそうな気がしたものですから……」と言いました。僕は、言い知れぬ恐怖を感じました。
『歯車』の解説
絶望への準備
レインコートは、『歯車』では「絶望と死」を表す符合として表れています。待合室の男に始まり、ホテルの長いす、N、タクシーの運転手が登場する場面にはレインコートがありました。
そうした符合は色にも表れています。例えば、黄色は「恐怖、不安、狂気」を暗示する色として登場しています(タクシー、ギリシャ神話の表紙などは黄色)。
逆に、緑色は「安心」を表しています。ホテルのロビーで緑色の笠をかけたスタンドを見た僕は、「何か僕に平和な感じを与えるものだった」と思っていますし、緑色のドレスを着た女性を見た僕は、「何か救われたのを感じ」たからです。
薔薇色もまた、「幸福、安心」を表す色です。カフェの薔薇色の壁紙を見た僕は「何か平和に近いものを感じ」ましたし、アスファルトに散らばる紙くずを「薔薇の花にそっくりだ」としたうえで「何ものかの好意を感じ」ているからです。
このように、『歯車』では物体や色を通して恐怖や幸福が暗示されている事が分かります。
『歯車』の感想
歯車の正体
タイトルになっている歯車は、実際に芥川が幻覚としていて見たものです、作中でも、「僕」は頭痛を伴って歯車を見ました。歯車の正体は、「閃輝暗転(せんきあんてん)」というギザギザの光の波が目の前に現れる症状によるものだと言われています。
芥川は、自身の母親のことを「狂人のようだった」と回想しています。そのため、芥川は「自分も母親と同じ境遇に陥ってしまうかもしれない」という恐怖を抱いていました。こうした考えが、芥川の精神を病むことに拍車をかけていたのかもしれません。
『歯車』の朗読音声
『歯車』の朗読音声は、YouTubeで聴くことができます。
最後に
今回は、芥川龍之介『歯車』のあらすじと内容解説・感想をご紹介しました。
ドッペルケンガーを見るようになった芥川の自殺直前の作品で、死のオーラが漂っている小説です。ぜひ読んでみて下さい!
↑Kindle版は無料¥0で読むことができます。