純文学の書評

【森鷗外】『高瀬舟』のあらすじ・内容解説・感想

『高瀬舟(たかせぶね)』は、江戸時代の随筆がもとになっている小説で、財産と安楽死がテーマとなっています。

今回は、森鷗外『高瀬舟』のあらすじと内容解説、感想をご紹介します!

『高瀬舟』の作品概要

著者森鷗外(もり おうがい)
発表年1916年
発表形態雑誌掲載
ジャンル短編小説
テーマ安楽死
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『山椒大夫・高瀬舟』には、鷗外が『高瀬舟』を書くに至った経緯等が記されている『高瀬舟縁起(たけせぶねえんぎ)』が収録されています。『高瀬舟』をより深く知りたい人は、ぜひ読んでみて下さい。

著者:森鷗外について

  • 夏目漱石のライバル
  • 樋口一葉の評価を高めた
  • 文豪の中で、社会的地位が最も高い人物(陸軍軍医総監)

医者の家に生まれ、東大を首席で卒業した鷗外は、軍医として働きます。スーパーエリートの鷗外は、国から認められてドイツに留学しました。このときの経験は、ドイツ三部作(『舞姫』『うたかたの記』『文づかひ』)の題材になっています。

『高瀬舟』のあらすじ

庄兵衛は、罪人を護送する仕事をしています。ある時、庄兵衛は弟を殺して流刑となった喜助という男を護送することになりました。

庄兵衛は、喜助の妙に明るい様子に違和感を覚えます。庄兵衛は、喜助が弟を殺した経緯を聞き、やるせない気分になるのでした。

登場人物紹介

庄兵衛(しょうべえ)

初老の主人公。下級役人で、高瀬舟の船頭をしている。

喜助(きすけ)

30歳くらいの男。弟を殺した罪で島流しにされる。

『高瀬舟』の内容

この先、森鷗外『高瀬舟』の内容を冒頭から結末まで解説しています。ネタバレを含んでいるためご注意ください。

一言で言うと

安楽死は善か悪か

不思議な罪人

江戸時代の都の流通は、街中を流れる高瀬川を通る高瀬舟が担っていました。島流しされる罪人を輸送することにも、高瀬舟は使われています。

そうした罪人の中には、心中したのに死に切れないで生き残ってしまった人のような、同情せずにはいられない人もいました。そんな罪人の護送は下級の役人が担っていましたが、誰もやりたがらない仕事でした。

 

庄兵衛は、あるとき喜助という罪人の護送を任されます。罪状は「弟殺し」でしたが、彼は細身で色白の男で、庄兵衛にうやまう態度を取るような珍しい罪人でした。

また、普通の罪人はたびたび役人に媚を売ったり従うフリをしたりしますが、喜助はそんなそぶりを見せません。庄兵衛は喜助に興味を持って、彼を観察します。

するとその顔は、晴れやかな表情を浮かべていました。庄兵衛は、不思議に思って喜助を見つめていました。

喜助のこれまで

庄兵衛は、好奇心を抑えきれず「なぜそんな態度でいれるのか」と聞きます。すると喜助は、これまでの経験を語りました。それによると、喜助はかなりの貧乏で、苦しい生活を強いられていました。

それに比べれば、島での暮らしは全く苦にならないのだと言います。また、高瀬舟に乗る前に牢獄で決まった時間に食事ができたことが、どれだけありがたかったかを語りました。

その話を聞いて、庄兵衛は胸を打たれます。牢獄の環境は劣悪で、悲惨な場所だからです。それでも、食事ができて雨風がしのげるというだけで、喜助にとっては天国のような場所だったのでした。

殺人の理由

そして庄兵衛は、なぜこれほど人の良い喜助が弟を殺したのか疑問に思い、理由を聞きました。

すると、喜助は次のように話します。子供の頃に両親を亡くした喜助とその弟は、2人で力を合わせて生きてきました。しかし、弟は病気になってしまい、喜助は懸命に働いて弟の看病をします。

 

ところがある日、仕事を終えて帰った庄兵衛は衝撃を受けます。なんと、弟が喉にカミソリを食い込ませて苦しんでいたのです。弟は、これ以上喜助に迷惑をかけられないと思い、自殺を図ったのでした。

しかし死にきれていないため、弟は喜助に「カミソリを引き抜いて死なせてくれ」と頼みます。喜助は困惑しますが、弟は死ぬことを切望しています。覚悟を決めた喜助は、カミソリを引き抜きました。

その瞬間、近所のおばあさんがやってきて捕まってしまったのです。話を聞き終わった庄兵衛は、なんとも言えない気持ちになります。

彼は普段から、不条理な理由で罪人が生まれることを疑問に思ってます。今回の喜助の島流しも、正当ではないと思うのでした。

『高瀬舟』の解説

カミソリを「抜く」

死に際の喜助の弟は、喜助にカミソリを抜くよう依頼しました。とどめを刺すには、カミソリをより深く刺す方が効果的なのではないかと思いますが、喜助は「抜く」ことにこだわりました。

この意味については、まず「喜助の心理的負担を減らすため」というのが挙げられます。「刺す」というと、いかにも殺人をしているようで抵抗がありますが、「抜く」という行為ならまだましに感じられます。

その後、喜助は弟殺しで刑に処されますが、それによって喜助は生活水準をレベルアップさせることができました。よって、「抜く」という行為は、喜助を苦しい京都での生活から抜き取ったことを表していると言えます。

葉名尻竜一「森鷗外『高瀬舟』」(『立正大学国語国文』2007年3月)

『高瀬舟』の感想

安楽死に関すること以外に、考える点が多い小説だと思いました。まず、喜助の弟の行動についてです。弟は、喜助にこれ以上迷惑をかけられないと思って自殺しますが、それは本当に正しいことだったのか疑問に思いました。

たった1人の肉親を失った喜助は、悲しみのあまり後を追って自殺することも考えられます。確かに弟を養う義務からは解放されますが、それ以上に心が不健康になってしまうのではないかと思ってしまいました。

しかし、弟の死によって喜助の流刑が決定し、今までよりマシな生活が保障されることになったので、弟の死は現段階では喜助のためになったと言えます。

ただ、このさき喜助が弟の死から立ち直れなかった場合、弟の行動はやはり間違ってると私は思ってしまいます。

 

鷗外は、陸軍で医者のトップの地位についていた人物です。そのため、日々死について考えるシーンがあり、『高瀬舟』が書かれたのかと思いました。

最後に

今回は、森鷗外『高瀬舟』のあらすじと内容解説・感想をご紹介しました。

重いテーマではありますが、内容は難しくないので抵抗なく読める作品だと思います。また、当事者である喜助の目線からではなく、第三者である庄兵衛の視点から描かれるのが面白いと思いました。ぜひ読んでみて下さい!

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「純文学を身近なものに」がモットーの社会人。谷崎潤一郎と出会ってから食への興味が倍増し、江戸川乱歩と出会ってから推理小説嫌いを克服。将来の夢は本棚に住むこと!
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