思わず某ジブリ映画を思い出してしまうタイトルですが、いじめをテーマとしているため、内容は結構ドロドロしている作品です。
今回は、宮沢賢治『猫の事務所』のあらすじと内容解説、感想をご紹介します!
Contents
『猫の事務所』の作品概要
著者 | 宮沢賢治(みやざわ けんじ) |
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発表年 | 1926年 |
発表形態 | 雑誌掲載 |
ジャンル | 童話 |
テーマ | いじめ |
『猫の事務所』は、1926年に文芸雑誌『月曜』(3月号)で発表された宮沢賢治の童話です。猫の事務所でのいじめが描かれています。
賢治が生前に発表した、数少ない作品のうちの1つです。1996年には「賢治のトランク」というオムニバス映画で映像化されています。ますむら ひろしさんによって、漫画化もされています。
上でご紹介したのは、偕成社の絵本です。賢治の作品は世界観が作りこまれているので、絵本だとより楽しめると思います。
著者:宮沢賢治について
- 仏教と農民生活に主軸を置いて創作活動にはげんだ
- 宗派の違いで父親と対立
- 理想郷・イーハトーブ(故郷の岩手県がモデル)を創造
- 妹のトシと仲が良かった
賢治は熱心な仏教徒で、さらに農業に従事した人物です。宗派の違いで父親と対立し、なかなか和解には至りませんでした。故郷の岩手県をモデルにした理想郷・イーハトーブを想像で創り上げ作品に登場させました。
妹のトシは賢治の良き理解者で、トシが亡くなったときのことを書いた『永訣(えいけつ)の朝』は有名です。
賢治は、コスモポリタニズム(理性を持っている人間はみな平等という思想)の持ち主であるため、作品にもその色が出ています。生前はほとんど注目されず、死後に作品が評価されました。
『猫の事務所』のあらすじ
猫の第六事務所では、4人の書記と事務長が働いています。第4書記のかま猫は、汚れているせいで他の猫から嫌われていました。
事務長はそれに構わず、かま猫にも優しく接します。しかし、ある日を境にかま猫につらく当たるようになってしまいました。それでも、かま猫はひたすら耐え続けます。
登場人物紹介
かま猫
主人公の第4書記の猫。薄汚れているため、他の猫から嫌われている。
事務長
猫の事務所の事務長をしている黒猫。かま猫にも優しく接する。
書記の猫たち
かま猫を嫌う猫たち。あの手この手でかま猫を陥れようとする。
『猫の事務所』の内容
この先、宮沢賢治『猫の事務所』の内容を冒頭から結末まで解説しています。ネタバレを含んでいるためご注意ください。
一言で言うと
いじめ撲滅の難しさ
いじめられっこ・かま猫
猫の第六事務所は、猫の歴史と地理を調べる場所です。とても人気の仕事でしたが、そこで働けるのは4人の書記と事務長だけです。
第一書記は白猫、第二書記は虎猫、第三書記は三毛猫、第四書記はかま猫でした。かま猫はかまどで眠るのでいつも薄汚れていて、他の書記からは嫌われていました。しかし、事務長は黒猫なので、そんなことは気にせずかま猫と接します。
かま猫は、あるとき仕事で手柄を立て、事務長から一目置かれる存在になりました。そのため、余計に他の書記たちから憎まれてしまうのでした。かま猫は、なんとか皆と仲良くしようと頑張りますが、上手くいきません。
しかし、事務長だけはかま猫に優しくしてくれるのでした。かま猫は、かまどで眠りながら「どんなにつらくてもぼくはやめないぞ、きっとこらえるぞ」と、涙をためて誓います。
解散
ところが、事務長も当てにならなくなります。ある日、かま猫は足が腫れてしまったので仕事を休みました。かま猫が休んだ事務所で、他の猫たちは「かま猫は海水浴に行った」「宴会に行った」「かま猫は次期事務長を狙っている」と口々に嘘を言います。
それを聞いた事務長は激怒しました。次の日、出勤したかま猫は皆にあいさつしますが、全員に無視されます。それどころか、一番書記の白猫がかま猫の仕事を引き継いでおり、かま猫の仕事はなくなっていたのです。
かま猫は、一日中事務所のすみで泣いていました。すると、事務長の後ろの窓から獅子が中をのぞきます。そしていきなり戸口を叩いて入ってきました。猫たちは、驚いてうろたえるばかりです。
そして獅子は、「お前たちは何をしているか。やめてしまえ。解散を命ずる」と告げます。物語の語り手は、「ぼくは半分獅子に同感です」と言いました。
『猫の事務所』の解説
「半分同感です」について
かま猫がいじめに遭っている原因の1つは、その異質性です。かま猫には、「かまどで寝る」という癖があり、そのせいでいつも煤(すす)だらけであるため、他の猫からいじめられています。
「見た目が違うから排除する」という他の猫の意識を指摘することもできますが、同時に「かま猫はかまどで寝るのを辞めればよかったのでは?」という疑問が湧いてきます。
かま猫は、自分がいじめられている原因を追究することなく、周囲に気を使ってなんとかやり過ごすということしかしてきませんでした。
問題を自力で解決しようという意思がかま猫からは感じられないため、語り手は「半分同感です」という言い方をしたのではないでしょうか。
『猫の事務所』の感想
最後の1文の意味
最後、獅子が猫の事務所のいじめを目の当たりにして、解散を命じました。それに対して語り手は、「ぼくは半分獅子に同感です」と言いました。これは何を意味しているのでしょうか?
私は、語り手はこれでは根本的な解決になっていないから、獅子のやり方に納得できないのではないかと思いました。
語り手は、事務長をはじめ書記の猫たちにもきちんと反省してもらい、自分たちの力で問題を解決してほしかったのです。
しかし、外部から干渉されたせいで、その機会が失われてしまいました。でも、だからと言ってこのままでいじめがなくなるとは到底思えません。賢治は、いじめを内部で自発的に辞めることの難しさを伝えたかったのではないでしょうか。
『猫の事務所』の論文
『猫の事務所』の論文は、国文学研究資料館のサイトから検索できます。
最後に
今回は、宮沢賢治『猫の事務所』のあらすじと感想をご紹介しました。
ねちねちしたいじめが横行していて、社会の縮図を見ているような気分になります。「こういう汚いことをするのは辞めよう」と思える作品です。
本当に、猫の事務所が開設されていたら面白いなと思います。青空文庫にもあるので、ぜひ読んでみて下さい!
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