山田詠美は、とにかく強くて芯のある女性を描く印象がある作家です。
今回は、山田詠美のおすすめの本を4冊ご紹介します!
山田詠美ってどんな人?
山田詠美は、1959年生まれ東京都出身の小説家です。『ソウル・ミュージック・ラバーズ・オンリー』で第97回直木賞受賞しました。また『ジェシーの背骨』は、受賞こそ逃したものの第95回芥川賞候補になりました。
多くの作家に影響を与えており、『コンビニ人間』『しろいろの街の、その骨の体温の』で知られる村田沙耶香は、「人生で一番読み返した本は、山田詠美『風葬の教室』」と語っています。
初級編
「とりあえず、有名な作品をさらっと読みたい!」「話振られたとき困らないように、代表作だけ知っておきたい!」というビギナー向けに、読んでおけば間違いない作品を○○つ紹介します。
『風葬の教室』
著者 | 山田詠美(やまだ えいみ) |
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発表年 | 1988年 |
発表形態 | 雑誌掲載 |
ジャンル | 中編小説 |
テーマ | いじめ |
『風葬の教室』は、1988年に文芸雑誌『文藝』(春季号)で発表された山田詠美の中編小説です。
小学5年生の大人びた少女が、クラスメイトからのいじめを受けて自殺を決意するも、意外な方法でそれを克服する様子が描かれています。第17回平林たいこ賞を受賞しました。
あらすじ
杏は、転勤が多い父について転校をくり返してきた少女です。杏が小学5年生の夏休み明けから通うことになったのは、地方都市の小学校でした。やぼったいクラスメイトを見下しながらも、杏はクラスになじめたことに安心していました。
しかし、1人の男性教師から特別扱いされたことをきっかけに、杏はいじめを受けるようになってしまいました。
日に日にエスカレートするいじめに、杏は徐々に疲弊(ひへい)していきます。そんなとき、杏はある方法でクラスメイトを「殺す」ことを思いつくのでした。
感想
美しさは、武器であるとともにウィークポイントでもあります。美という個性を持った人は、羨望と嫉妬の両方のまなざしを受けるからです。
物語の舞台は、独自の法律がまかり通る残酷で閉鎖的な空間・教室。自分の美しさを自覚し、その魅力を存分に発揮している小学5年生の杏は、クラスの女の子の憧れの的である1人の男性教師を虜にしてしまいます。
そんなことがきっかけで杏はいじめの標的になってしまうのですが、教室がいかに狭い世界かを思い知りました。同時にそこの価値観から抜け出すのは非常に難しいと感じた作品です。
『蝶々の纏足』
著者 | 山田詠美(やまだ えいみ) |
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発表年 | 1986年 |
発表形態 | 雑誌掲載 |
ジャンル | 中編小説 |
テーマ | 少女 |
『蝶々の纏足』は、1986年に文芸雑誌『文藝』(特別号)で発表された山田詠美の中編小説です。2人の少女の、依存とも取れる複雑な関係が描かれています。
あらすじ
幼い頃から「仲の良い」瞳美とえり子は、常に一緒に行動しています。瞳美がえり子を避けても、えり子は瞳美を目ざとく見つけて自分のそばを離れさせないのでした。
高校生になっても、2人の関係は変わりません。ところが、瞳美に彼氏ができたことをきっかけに、瞳美には少しずつ変化が起こっていきます。
感想
この作品の面白いところは、これでもかというくらい女の嫌なところが文章からにじみでているところです。
他人の目に映る自分の姿を十分すぎるくらい理解したうえで、不自然でない程度に相手に媚びを売り、しかもそれを無意識的に行っていると周りに信じ込ませる計算高さ。自分のためなら友達を売っても…と考えてしまう残酷さ。
ナルシストで利己的で、打算的で意地悪で、はかなくてあやうくてうつくしい。『蝶々の纏足』には、そんなリアルな少女たちが登場します。
中級編
「代表作一通り読んで、もっと他の作品も読んでみたくなった!」「もうにわかは卒業したい!」という人向けに、ここでは定番からは少しそれた作品をご紹介します。
『ぼくは勉強ができない』
著者 | 山田詠美(やまだ えいみ) |
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発表年 | 1991年 |
発表形態 | 雑誌掲載 |
ジャンル | 連作小説 |
テーマ | 学歴主義へのアンチテーゼ |
『ぼくは勉強ができない』は、1991年に文芸雑誌『新潮』(5月号)で発表された山田詠美の連作小説です。既存の価値観と真っ向に対立する青年の様子が描かれています。
あらすじ
秀美は勉強ができませんが、女の子にもてるクラスの人気者です。変わった母と祖父に育てられ、周囲とは少し違った価値観を持っています。
そんな秀美は、勉強を強要されたり、片親であることに対して同情されたり、異性と大胆に交遊することを非難されたりします。しかし、秀美は独自の価値観をもってそれらと対峙(たいじ)するのでした。
感想
山田詠美さんの作品には、「人間の価値は地位とか出身とかそういうものではなく、その人の人間的な魅力で決まる」という考えが貫かれているように思います。『ぼくは勉強ができない』はまさにそうです。
本作には、欠点はあるけれどそれを凌駕する魅力を持った人物が登場します。「理想の母親像」をぶち壊していく多情で破天荒な仁子と、そんな仁子とプレイボーイ祖父に育てられた男子高校生・秀美。尻軽だけど秀美の人としての魅力を評価する真理などです。
一般的には劣等生に分類される彼らが、実に生き生きと描かれています。逆にガリ勉タイプは、本作では「つまんない人間」として面白いくらいに打ちのめされています。個性的な登場人物に惚れてしまうこと間違いなしの作品なので、ぜひ手に取ってみて下さい!
『オニオンブレス』
著者 | 山田詠美(やまだ えいみ) |
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発表年 | 1986年 |
発表形態 | 雑誌掲載 |
ジャンル | 短編小説 |
テーマ | 愛 |
『オニオンブレス』は、1986年に文芸雑誌『文学界』(4月号)で発表された山田詠美の短編小説です。失業してバーに入り浸っている男が、トイレに書かれた落書きをきっかけに1人の女と心を通わせる様子が描かれています。
あらすじ
上品とは言えないクラブ・エクスタシーガレージに通うシドニーは、ある夜女子トイレに「あの人のオニオンブレス(臭い息)には我慢が出来ない。誰か私を助けて」と書いてあるのを見つけます。
興味を持ったシドニーは、その走り書きの下に「君を助けたら、僕のことも助けてくれる?」と返事を書きました。
その夜から、シドニーとまだ見ぬ女との文通が始まります。妻に絶望して人を愛せなくなっていたシドニーは、その女とのやりとりを通して人間らしさを徐々に取り戻していきます。そして最後、シドニーはその女の正体を知って驚くのでした。
感想
ラストの展開には薄々気づいていたものの、やはり読み進めると感動してしまいました。
顔が見えないコミュニケーションという、なんともロマンチックなシチュエーションが、さびれたクラブの落書きだらけの女性トイレで行われるというちぐはぐな感じが、この物語の設定の面白いところだと思います。
最後に
今回は、山田詠美のおすすめの本を4冊ご紹介しました。
ぜひ読んでみて下さい!