入試において、現代文ならまだしも小説の解き方や勉強法が分からない、解説を読んでも納得できない、センスが無いなどと小説の読解に苦手意識を持っている方も多いのではないでしょうか?
この記事では、論理的に答えを導き出すプロセスを解説します。ぜひ問題を解き、答え合わせをした状態で読んでみてください!
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令和6年度本試験 小説
牧田真由子『桟橋』(2017年発表)からの出題です。過去3年分の試験問題は大学入試センターのホームページからダウンロードできます。
文芸雑誌『文藝 2017年秋季号』に収録されていますが、雑誌での発表となり単行本として出版されていない作品です。
問1
辞書義を回答させる問題です。配点は少ないですが、余計な失点をしないために確実に抑えたい問題です。
言葉の意味を知っていることがベストですが、仮に意味を知らない単語が問題になっていたとしても意味を文脈から推測するプロセスをご紹介します。
(ア)
正答は④です。今回は情報が少ないため、「うらぶれる」の意味が分からない場合は文脈から意味を推測するハードルは高いですが、選択肢を検討します。
本文に「うらぶれた男やもめと彼を陰に陽に支えるおせっかいな商店街の面々」とあり、「男やもめ」と「彼を陰に陽に支えるおせっかいな商店街の面々」という言葉に注目します。
選択肢:①
「うらぶれた男やもめ」は、「おせっかいな商店街の面々」に「陰に陽に支え」られています。いくらおせっかいな人でも、器が小さいひねくれ者を支えることはないだろうと考え、この選択肢を排除します。
選択肢:②
妻を失った男が「だらしなく」なるかどうかは不明で、かつ「おせっかいな」人が「大雑把」な人を支えることは不自然ではなく、完全にこの選択肢を切ることは出来ません。
「うらぶれた」の意味が分からない場合は、②か④のどちらかを選ぶことになります。
選択肢:③
選択肢を本文に入れると「不満げで投げやりな男やもめと彼を陰に陽に支えるおせっかいな商店街の面々」となり、「男やもめが」何に対して「不満げ」かが不明瞭となるためこの選択肢は誤りです。
選択肢:④
選択肢を本文に入れると「みすぼらしく惨めな男やもめと彼を陰に陽に支えるおせっかいな商店街の面々」となり、意味が通る文章になるためこの選択肢が正答です。
選択肢:⑤
選択肢①と同じ考え方で、いくらおせっかいな人でも「不誠実な」人を支えることはないだろうと考え、この選択肢を排除します。
(イ)
正答は④です。以下は、「もっともらしい」の直前のイチナとおばのやりとりを簡単に抜粋したものです。
「そもそもなんでまた居候?」
「たしかにする理由はない。でもしない理由もなくない?」
「しない方の理由はひっきりなしに湧いて来るんだけど?」
「それはその人が決めることでしょう。その人のことを私が予め決めるわけにはいかないでしょう」
イチナのような感覚の持ち主は、知らない人の家で居候をすることに対して抵抗があります。対しておばは、居候がさも当たり前に行うことであるかのように、堂々と発言しています。この様子を踏まえて選択肢を検討します。
選択肢:①
上記のやりとりで、おばは居候が悪いことだと認識していないことが分かります。そのため「悪びれず」というのは正しいですが、「開き直るような」というのが誤りです。
「開き直る」には「急に態度を改めて、攻撃的な態度を取る」という意味があり、上記の会話からそれは読み取れないためこの選択肢は誤りです。
選択肢:②
居候をする主体はおばであり、おばが居候の話題を「他人事」と認識しているとは考えにくいため、この選択肢は誤りです。
選択肢:③
「へりくだる」とは「他人をうやまって自分は控えめな態度をとる」という意味です。おばは姪のイチナに対してへりくだった様子ではありません。
また、居候に否定的なイチナに対して、おばははっきりと自分の意見を堂々と述べており、理解を求めるように下手に出るニュアンスは感じられないためこの選択肢は誤りです。
選択肢:④
おばは「居候の何が悪いのか」とでも言うように、居候に否定的なイチナに対して自身の意見を述べています。
問題文に選択肢を当てはめると「『いかにも正しいことを言うような』顔で言わないでよ」となり、意味が通り不自然さはないためこの選択肢が正答です。
選択肢:⑤
「問い詰める」「やりこめる」には攻撃的な意味が含まれます。確かにおばはイチナ問いに対してはっきり回答をしていますが、あくまで自分の意見を主張しているだけでイチナを攻撃しようとする意図は感じられません。この選択肢は誤りです。
(ウ)
正答は②です。「やにわに弁解し」の主語は祖父です。「祖父とおばが似ている」という文脈のため、居候について持論を展開するおばの様子を参考にして選択肢を検討します。
選択肢:①
イチナとおばの居候についての会話において、おばは簡潔に意見を述べています。その様子は「多弁」とは言えないため、この選択肢は誤りです。
選択肢:②
選択肢を本文に入れると「即座に弁解し」となり、意味が通る文章になるためこの選択肢が正答です。
選択肢:③
確かにおばは「居候をしない理由はない」と主張していますが、イチナとおばはあくまで会話をしているだけです。そこに意見を押し通そうとする姿勢は読み取れないため、「強硬」はおばの様子を形容するには少し強い表現です。この選択肢は誤りです。
選択肢:④
イチナが納得しているかは別として、おばはイチナの質問に過不足なくきちんと回答しています。その様子は「半端」ではないためこの選択肢は誤りです。
選択肢:⑤
選択肢を本文に入れると「柔軟に弁解し」となり、意味が通らないためこの選択肢は誤りです。
問2
正答は①です。選択肢の検討を行います。
選択肢:①
おばは、子どもたちが「我先にと集ってくる」ほど、子どもを夢中にさせる強い引力のあるままごとの世界を自身の「演劇の才能」によって作り上げます。
子どもたちが的外れなセリフを言ったくらいでは、おばが作ったままごとの世界は壊れないことを言い換えているのは、①の選択肢です。
選択肢:②
9行目に「ままごとといっても、ありふれた家庭を模したものであったためしはない」とあるため、「もともと子ども相手のたわいのない遊戯だった」が誤りです。
選択肢:③
「子どもたちの取るに足らない言動」が誤りです。子どもたちは「的外れなせりふを連発」しますが、それは「取るに足らない(つまらない、ささいな)言動」とは言えないためです。
選択肢:④
「奇抜なふるまいを子どもたちに求めるものだった」が誤りです。設定に応じた「奇抜なふるまい」をしているのはおばであり、それを子どもたちに求めていることは本文に記載がなく読み取れもしないためです。
選択肢:⑤
「おばが状況にあわせて話の筋をつくりかえる」ことは本文に記載がなく読み取れもしないため、この選択肢は誤りです。
問3
正答は④です。選択肢の検討を行います。
選択肢:①
「同居していたことをおばに口止めされていた」「おばの生活についてイチナと語り合う良い機会だと思ってうれしくなった」は本文に記載がなく読み取れもしないため、この選択肢は誤りです。
選択肢:②
「イチナとの会話を自然に続けようと考えてくつろいだ雰囲気をつくろうとしたから」が誤りです。
「(おばが居候していたことを)言ってしまうと友人は、もう気安い声を出した」という文章から、友人がおばが居候していた事実をイチナに打ち明けることで、隠しごとをしているような罪悪感から解放され、気楽になった様子が読み取れます。
努めて「つろいだ雰囲気をつくろうとした」わけではなく自然と「気安い声が出た」ため、この選択肢は誤りです。
選択肢:③
友人は、おばが居候していた事実をイチナに打ち明けることで、隠しごとをしているような罪悪感から解放されて思わず「気安い声」を出しました。
「現在は付き合いがないことを示してイチナを安心させ」るために意図的に「気安い声」を出したわけではないため、この選択肢は誤りです。
選択肢:④
「おばを煩わしく感じているとイチナに思われることを避けようとして」は、イチナに「おばさんと話すのは億劫?」と聞かれた友人が、誤解を解くためにおばの居候を打ち明けたことと一致します。
また「(おばが居候していたことを)話さずにいた後ろめたさから解放されてイチナと気楽に会話できると考えた」は「(おばが居候していたことを)言ってしまうと友人は、もう気安い声を出した」の言いかえであるため、この選択肢が正答です。
選択肢:⑤
友人がイチナにおばの居候を告げないでいた理由が誤りです。友人はイチナに「おばさんと話すのは億劫?」と聞かれ、それを否定するためにおばが居候していたことを言いました。
「おばがイチナにうっかり話してしまうことを懸念して」自分から打ち明けたわけではないため、この選択肢は誤りです。
問4
正答は②です。
友人と電話をしながら何の気なしに糸屑を弄んでいたイチナですが、友人からおばが友人の家に居候していたことを知らされ、驚き動揺したイチナは思わず手を止めます。
その動揺を引きずったままイチナは再び手を動かし始め、「ずぼらでそそっかしい」と思っていたおばが、友人からは「ぼろを出さない」と評価されていたことを知る頃には、イチナはまたおばの居候を聞く前と同じように糸屑を拾うのでした。
選択肢:①
「自分とおばの関係に他人が割り込んでくることの衝撃」が誤りです。イチナはおばが友人の家に居候していたことに驚いており、その先にこのような嫉妬に近い感情は読み取れないため、この選択肢は誤りです。
選択肢:②
「揺さぶられるイチナの心」は「動揺」の言い換えです。他の文章も本文と相違がないため、この選択肢が正答です。
選択肢:③
50行目以降のイチナとおばのやり取りでは、確かにイチナがおばの居候を迷惑だと捉えていたことが分かります。しかし、手を止めるきっかけとなった「友人の家におばが居候していたこと」がこの選択肢からは抜けているため、誤りです。
選択肢:④
「何に」うろたえたかが異なります。「友人とおばの関係が親密であったと告げられたこと」ではなく、「友人の家におばが居候していたこと」にイチナはうろたえました。
また、イチナが「おばに懐いていた頃を思い返」していたかは本文からは読み取れないため、この選択肢は誤りです。
選択肢:⑤
「おばに対して同じ思いを抱いていたことにあらためて気づいたイチナの驚き」が誤りです。イチナは「友人の家におばが居候していたこと」に驚きました。
問5
正答は②です。選択肢の検討を行います。
63行目に、母がおばの居候に対して「得意の批評眼を保てなくなった」=正常な判断ができなくなったとあります。続く「母だけではない」という文章以降で、「おばを住まわせた人たち」も母と同じように居候を肯定していることが分かります。
なぜ居候を否定しないかと言うと、「どこからどこまでがおばなのかよくわからない(62行目)」、つまりおばの内面と外面の境界が分からず、おばが「自然体(44行目)」過ぎて捉えどころがないためです。
ここで、イチナは彼女らのように「正常な判断ができない状態にはなりたくない」「自分だけはおばの輪郭を捉えたい」という思いで「私はごまかされたくない」と語ります。
選択肢:①
「自分だけは迷惑なものとして追求し続けたいという思い」が誤りです。
確かにイチナはおばの居候を良く思っていませんが、63行目以降の文章でイチナは居候を否定しない人たちのように「正常な判断ができない状態にはなりたくない」「自分だけはおばの輪郭を捉えたい」という思いを抱いています。
「おばの居候を迷惑なものとして否定したい」という選択肢の文言とは一致しないため、この選択肢は誤りです。
選択肢:②
「これまでともに生活してきた者たちはおばという人のあり方を捉えられなかったが、自分だけはどうにかして見誤らずに捉えたい」と「正常な判断ができない状態にはなりたくない」「自分だけはおばの輪郭を捉えたい」という思いが一致するため、この選択肢が正答です。
選択肢:③
「明確な記憶を残させないようおばがふるまっていた」が誤りです。おばは意図的にそうふるまっていたのではなく、おばがあまりにも「自然体(44行目)」に過ごしていたため、結果的におばとの生活が居候をさせた側の記憶に残らなかったのです。
また「自分だけはおばを観察することによって記憶にとどめておきたいという思い」が誤りです。イチナは、居候させた人の記憶からおばとの生活が抜け落ちることを危惧しているわけではありません。
選択肢:④
「同居していた友人や母ですらどこまでが演技か見抜くことができなかった」が誤りです。おばは演技ではなくあくまで「自然体(44行目)」に過ごしていました。
「普通、人にはもっと、内面の輪郭が露わになる瞬間がある(60行目)」というところから、普通ではないおばの内面が見えないことが分かります。
「どこからどこまでがおばなのかよくわからない(62行目)」は、つまりおばの内面と外面の境界が分からない、「自然体(44行目)」過ぎて捉えどころがないということです。
この事実に対して、イチナが「自分だけは個々の言動からおばの本心を解き明かして理解したい」と思っていることは特に読み取れないため、この選択肢は誤りです。
選択肢:⑤
イチナは「おばの居候生活の理由」を明らかにしたいのではなく、「正常な判断ができない状態にはなりたくない」「自分だけはおばの輪郭を捉えたい」という思いを抱いています。これは選択肢と一致しないため誤りです。
問6
正答は②です。選択肢の検討を行います。
選択肢:①
擬音語・擬態語はその場の様子をより臨場感を以って伝える役割があるため、この選択肢は正しいです。
選択肢:②
子供たちの影が砂を黒く塗っていく=影が伸びる=長い時間が過ぎている=それだけ子供たちがままごとにのめり込んでいることを表現しています。「子供たちの意識の変化」が示されているわけではないため、この選択肢が誤りです。
選択肢:③
友人からはイチナが知らないおばの姿(40〜46行目)が語られ、その間にイチナが知るいつものおばの様子が挿入されており、イチナが知るおばと知らないおばが同時に語られているため、この選択肢は正しいです。
選択肢:④
イチナの語りを挟まずにあえて会話を連続させることで、落ち着いてイチナの問いをかわすおばに対して徐々にヒートアップするイチナの様子が顕著になっています。この選択肢は正しいです。
選択肢:⑤
「氷山の一角」はごく一部だけが表れていることの例えであり、掴みかねるおばの姿を示しています。
倒置法により「氷山の一角みたいに」という語りが強調されることで、イチナにとっておばがベールに包まれた存在であることが全面に示されています。この選択肢は正しいです。
問7(ⅰ)
正答は④です。
Xは選択肢が全て異なり、これらはおばに関する描写を本文から引用したものです。Yの選択肢は実質2つであるため、まずYに当てはまるのがどちらかを考えます。
Yの検討
問5で「『どこからどこまでがおばなのかよくわからない(62行目)』、つまりおばの内面と外面の境界が分からない」と書きました。
これは教師の「人には普通『内面の輪郭(60行目)』が明らかになる時があるのに、おばにはそれが無いとされています」という発言と一致します。
一般人(われわれ)は「自分はこういう人間である」という枠を持っていないためそれを求めますが、一般人と異なるおばはそれとは対極にある存在です。
そのように考えると、生徒Mの「Yようとする様子がおばには見られない」という発言は、「『一般人のような』様子がおばには見られない」と言い換えられます。
一般人は図らずも「日常、己への枠を持たずに生活し」ています。そのため、「なに者かである者として〈私〉を枠づけ」ようという欲求を持っています。Yに入るのは「なに者かである者として〈私〉を枠づけ」です。
Xの検討
①④に絞られましたが、おばが「ままごと遊びになぜか本気で付き合ってくれる」ことはここで考えている「おばの内面の分からなさ」とは関係がありません。正解は④です。
問7(ⅱ)
正答は④です。選択肢の検討を行います。
選択肢:①
おばが「実現させたい自己を人に見せないよう意識している」ことは本文に書いておらず、読み取れもしないため、この選択肢は誤りです。
選択肢:②④
いずれも「自分を枠に収めたい」という欲求がおばにあるとする選択肢です。枠がないために自分を何かしらの枠に落ち着かせたいと思うのはおばではなく「われわれ」です。そのため、これらの選択肢は誤りです。
選択肢:③
「われわれ」が自分を枠に収めたいという欲求を持っているのに対して、おばはそうでないとイチナは思っています(だからこそ「どこからどこまでがおばなのかよくわからない(62行目)」)。この選択肢が正答です。
最後に
今回は、令和6年度大学入試センター試験の小説を解説しました。
ぜひ参考にしてみて下さい!