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【共通テスト】2021年(令和3年度) 国語 小説解説

入試において、「小説の解き方や勉強法が分からない」「解説を読んでも納得できない」「センスが無くてできない」などと小説の読解に苦手意識を持っている方も多いのではないでしょうか?

この記事では、ポイントを押さえて論理的に答えを導き出すプロセスを解説します。ぜひ問題を解き、答え合わせをした状態で読んでみてください!

令和3年度本試験 小説

加能作次郎『羽織と時計』からの出題です。過去3年分の試験問題は大学入試センターのホームページからダウンロードできます。

大学入試センター

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問1

辞書義を回答させる問題です。配点は少ないですが、余計な失点をしないために確実に抑えたい問題です。

言葉の意味を知っていることがベストですが、仮に意味を知らない単語が問題になっていたとしても意味を文脈から推測するプロセスをご紹介します。

(ア)

正答は②です。「術」の意味を知っていたら②が正解であると分かります。それを知らなかった場合の絞り方を考えます。

まず文脈から、W君が勝手に話を進めて、「私」がW君についていけず置いてけぼりになっている状況がうかがえるため、それと近い選択肢を選びます。

選択肢:①

「私」がW君の提案を断る隙やタイミングがなく、「私」がW君の話に口を挟んだり、断る口実を考える時間がなかったという状況のため、断る「理由もなかった」というのは少しズレています。

選択肢:②

W君が勝手に話を進めて、「私」がW君についていけず置いてけぼりになっている状況」であることを考慮し、断る方法がないということでこの選択肢が正答です。

選択肢:③

義理とは、「立場上、また道義として他人に対して務めたり報いたりしなければならないこと」です。

この文脈で、「私」は長期間休んでいたWのカバーをしていたということで、羽織をもらうという点でWから施されることになっているため、この選択肢は意味が通りません。

選択肢:④、⑤

④と⑤は、「私」がWの提案を断る隙やタイミングがなかった」という文脈とは異なる選択肢のため誤りです。

(イ)

正答は②です。

問題は「妙な羽目からつい言いはぐれて了って」となっており、「つい」とあるように計らずも打ち明けなかったというニュアンスです。

①「言う必要を感じないで」、④「言う気になれなくて」、⑤「言うべきでないと思って」と意図が反映されている意味合いがある選択肢を排除します。

また23行目に「そんなことを言って誤魔化して居た」とあり、明らかに羽織が貰い物であることが意識にある上でその事実を隠しているため、③「言うのを忘れて」という選択肢は誤りです。

(ウ)

正答は①です。

選択肢:②、④

「私」が引っ越しをするなどの記載はなく、W君との物理的な距離が以前より遠くなったわけではないため②「時間がかかるようになった」は誤りです。同じ理由で④「行き来が不便になった」は誤りです。

選択肢:③

W君のもとに「私」が出向く理由は、見舞いやお返し、感謝を伝えることです。W君は病気のままで、お返ししない限り「私」が抱える後ろめたさは消えないため、「会う理由が無くなった」は誤りです。

選択肢:⑤

28行目に「私はこの羽織を着る毎にW君のことを思い出さずに居なかった」とあるため、「思い出さなくなった」は誤りです。

問2

正答は③です。「私」は、妻に本当のことを言えず収まりの悪さを感じています。

選択肢:①

「私」は、妻に本当のことを言えてないもどかしさを感じています。これは自分に対する気持ちのため、「妻に対する、笑い出したいような気持ち」は誤りです。

選択肢:②

迷うとしたらこの②の選択肢かと思います。「収まりの悪さ」は、「不安」とは少し違います。

また、「私」が妻に羽織が貰い物だと告げていないことは事実ですが、本当のとこを言ったらどうなるかまで想像しているとは書かれておらず、読み取れもしないため選択肢から外します。

選択肢:③

「本当のことを告げていない後ろめたさとが入り混じった、落ち着かない気持ち」は「本当のことを言えないことによる収まりの悪さ」と一致します。

羽織を褒められて嬉しいことは明記されていませんが、褒められて喜ぶことは不自然ではないですし、本文から読み取れるためこの選択肢が正答です。

選択肢:④

「私」は「収まりの悪さ」を感じているのであって、「羽織だけ褒めることを物足りなく思う」と褒められることに焦点が当たっている選択肢は排除します。

選択肢:⑤

「あなたの様な貧乏人が、こんな羽織をもって居なさるのが不思議な位ですわね」という妻の発言を受けての選択肢だと思います。

確かに妻はそう思っているかもしれませんが、そこに悪意はありません。冗談めかしでいっているだけのため、「自分を侮っている妻への不満」という文言が文脈と合いません。

また、「自分を侮っている妻への不満」が、羽織が貰い物であることを正直に話すことを妨げている理由にはならないでしょう。

問3

正答は①です。選択肢の検討を行います。

選択肢:①

「貧乏な私は其時まで礼服というものを一枚も持たなかった」とあり、羽織は身に余る高価なものであるため、選択肢の「自分には到底釣り合わないほど立派なもの」は合っています。

W君は、自身が休んでいた間にリカバリーをしてくれた感謝を込めて「私」に上質な羽織を、さらに「私」が退職するときに懐中時計を送りましたが、一同僚への厚意にしてはいささか過剰であると考えられます。

「とまどっている」と明記されているわけではありませんが、やりすぎ感のある待遇に対して戸惑うことは不自然でなく否定できません。さらに「私」は「その一種の恩恵に対して、常に或る重い圧迫」を感じているため、この選択肢が正答です。

選択肢:②

32行目に「自分から望んで懐中時計を買って貰った」とあり、それを否定する文章もないため素直に「私」が時計が欲しかったと考えて良いでしょう。「自ら希望した時計にもさしたる必要は感じていなかったのに」は誤りです。

選択肢:③

「私」はW君による「一種の恩恵に対して、常に或る重い圧迫」を感じているため、「W君が羽織を贈ってくれたことに味をしめ」は誤りです。

また、「私」はW君への批判について「W君に対して気の毒でならなかった」としか語っておらず、「W君へ向けられた批判をそのまま自分にも向けられたものと受け取っている」と思っているかは不明です。

選択肢:④

「W君の厚意にも自分へ向けられた哀れみを感じ取っている」が誤りです。冒頭文には「W君は、妻子と従妹と暮らしていたが生活は苦しかった」とあり、さらに「病で休職」もしているためどっちかというとW君の方が苦境に立たされています。

そんな状況で高価な羽織と時計を「私」に贈る心理は、「哀れみ」ではなく単純に感謝であると考えられるため、この選択肢は誤りです。

選択肢:⑤

「見返りを期待する底意をも察知している」が誤りです。

「あれはW君が自分が罷める時にも、そんな風なことをして貰いたいからだよ」というW君への批判を耳にして、「私」は「非常に不快に感じた」と語っており、W君が見返りを求めていることを否定しているためです。

問4

正答は①です。選択肢の検討を行います。

選択肢:①

「他にいい口があったので、その方へ転ずることとなった」とあり、その後の「送別会」という言葉や「私が××社を辞した後」という語りから、「私」が退職したことが読み取れ選択肢と相違がありません。

56行目からは「私」がW君の妻を恐れる理由が語られているため、この選択肢が正答です。

選択肢:②

選択肢に「転職後にさほど家計も潤わず」とありますが、転職後の「私」の収入についての記載はなく不明。そのためこの選択肢は誤りです。

選択肢:③

「W君のことをつい忘れてしまう」が誤りです。「私はこの羽織を着る毎にW君のことを思い出さずに居なかった」(28行目)、「一度見舞旁々訪わねばならぬ」(50行目)とあり、「私」の意識には常にW君の存在があったことが読み取れます。

選択肢:④

「私」はW君の妻に対してへりくだる事を嫌がっているわけではなく、W君から多くを与えられているにも関わらずお返しをしていない後ろめたさにより足が遠のいています。

そのため、「妻君の前では卑屈にへりくだらなければならないことを疎ましくも感じているから」という文章が誤りです。

選択肢:⑤

W君が『私』を立派な人間と評価してくれたことに感謝の気持ちを持っているため」が誤りです。

私の為に奔走して呉れたW君の厚い情誼を思いやると、私は涙ぐましいほど感謝の念に打たれるのであった」(41行目)とあり、「私」はW君が自身のために動いてくれたことに対して感謝しており、選択肢は感謝の内容が異なるため誤りです。

問5

正答は⑤です。67行目に「私は何か偶然の機会で妻君なり従妹なりと、途中ででも偶わんことを願った」とあり、偶然を装ってW君の親族にめぐり合うことを望んでいることを根拠に選択肢の検討を行います。

選択肢:①

「自分たちの暮らし向きが好転した」とありますが、本文にそのような記載はなく読み取ることもできません。

また、妻にパンを買わせた目的は偶然を装ってW君の親族に会うことであるため、「かつてのような質素な生活を演出しようと作為的に振る舞いに及んでいる」は誤りです。

選択肢:②

「妻にまで虚勢を張るはめになっている」が誤りです。「私」が妻にパンを買わせた目的は偶然を装ってW君の親族に会うことであるためです。この選択肢は、「私」の行動の説明として適当ではありません。

選択肢:③

W君は「家族を犠牲にしてまで自分を厚遇してくれた」わけではなく、冒頭文に「W君は、妻子と従妹と暮らしていたが生活は苦しかった」とあるようにもともと暮らし向きは良くない状態であるにも関わらず、「私」に羽織と時計を与えました。

またパンを買って貢献しようとしているわけではなく、妻にパンを買わせた目的は偶然を装ってW君の親族に会うことであるため、この選択肢は誤りです。

選択肢:④

「どうにかしてその誤解を解こうとして」が誤りです。「私」がW君の厚遇に対してお返ししてないことが気がかりで一方的に気まずさを覚え、結果的にW君と距離ができてしまったことは事実であり誤解ではありません。

選択肢:⑤

「私」はW君の妻を恐れて直接見舞いに行く勇気がなく、偶然を装って妻にパン屋に行かせます。

妻には羽織をW君からもらったことを言っておらず、ましてや会社を辞めてから3~4年(74行目)経っている現在、W君に対して見舞いたいのに見舞えないジレンマを抱えていることを今さら打ち明けられないことは想像できるため、この選択肢が正答です。

問6(ⅰ)

正答は④です。宮島氏の批評では、小話が「生活の一部だけを切り取るもの」と定義されています。

作者の加納氏は生活を様々な面から多角的に描く作家でしたが、『羽織と時計』では生活の一部が切り取られ(羽織と時計にフォーカス)、小話的な書き方になっていると批評されています。これらを踏まえて選択肢の検討を行います。

選択肢:①

宮島氏は、『羽織と時計』が「ライフの一点」(=羽織と時計を中心にしたエピソードのこと)だけを切り取ったことを批判しているため、「多くの挿話からW君の姿を浮かび上がらせようとして」が誤りです。

選択肢:②

宮島氏は、「見た儘、有りの儘を刻明に描写する」作者の加納氏を評価していますが、『羽織と時計』は生活の一部切り取りでいつもの多角的な書き方がなされていないため批判しています。

「実際の出来事を忠実に再現」できていないことを指摘しているため、この選択肢は誤りです。宮島氏は加納氏を「忠実な生活の再現者」と評価していますが、『羽織と時計』に関しては例外的にそれが行われなかったと批評しています

選択肢:③

「強い印象を残した思い出の品への愛着が強かったため」の主語は作者の加納氏ですが、小説は創作であり作者=主人公とは限りません。そのため、私たち読者は加納氏が主人公の「私」と同じような経験をしたかを知る由がありません。

積極的に正答とできないため保留とし、より正解に近い選択肢があればそれを正答とします。

選択肢:④

「挿話の巧みなまとまり」とは統一感を指し、焦点を当てたもの(本作の場合は羽織と時計)から脱線しないようにすることです。

その結果W君の生活にまで話を広げることができず、ユーモラスで深みのない小話風な物語になってしまったと評価されています。

 

さらに宮島氏は「そして飽くまでも『私』の見たW君の生活、W君の病気、それに伴う陰鬱な、悲惨な境遇を如実に描いたなら、一層感銘の深い作品になったろう」と述べています。

羽織と時計という物品だけでなくW君の生活を詳細に描くべきだったということです。言いかえると、選択肢の通り「W君の生活や境遇の描き方が断片的なものになっている」となります。

確かにW君の生活が苦しいことは冒頭で示されていますが、困窮の度合いやW君の病状が語られないため読者はW君の生活苦を知ることができず、「私」を通して語られるわずかな情報からW君が置かれている状況を想像するしかありません。この選択肢が正答です。

問6(ⅱ)

正答は④です。選択肢の検討を行います。

その見解が合っているかどうかはここで問題にはならず(人の意見だし、見当違いの論でない限りは考える余地がある)、その見解が適切かどうかを考える。

選択肢:①

「かつてのようにはW君を信頼できなくなっていく」は、本文には記載がなく読み取れないため誤りです。

選択肢:②

「複雑な人間関係」とは、出版社で陰口言われたことを指していると考えられます。

冒頭文に「W君は、妻子と従妹と暮らしていたが生活は苦しかった」とあり元々暮らし向きは良くない状態であったため、「複雑な人間関係に耐えられず生活の破綻を招いてしまった」が誤りです。

選択肢:③

「好意をもって接していた『私』」が誤りです。「私」とW君の関係は良好であったことは読み取れますが、「私」が好意をもって接していたかは本文に記載がなく読み取れないためです。

選択肢:④

W君からの好待遇が責任として重く「私」にのしかかり、お礼をしたいのにできない心中が語られています。この選択肢は本文と相違がないため正答です。

最後に

今回は、令和3年度大学入試センター試験の小説を解説しました。

ぜひ参考にしてみて下さい!

ABOUT ME
yuka
「純文学を身近なものに」がモットーの社会人。谷崎潤一郎と出会ってから食への興味が倍増し、江戸川乱歩と出会ってから推理小説嫌いを克服。将来の夢は本棚に住むこと!
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