入試において、現代文ならまだしも小説の解き方や勉強法が分からない、解説を読んでも納得できない、センスが無いなどと小説の読解に苦手意識を持っている方も多いのではないでしょうか?
この記事では、論理的に答えを導き出すプロセスを解説します。ぜひ問題を解き、答え合わせをした状態で読んでみてください!
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令和4年度本試験 小説
黒井千次『庭の男』からの出題です。過去3年分の試験問題は大学入試センターのホームページからダウンロードできます。
問1
正答は②⑥です。
「私」は立て看板に描かれた男の存在が気になりつつも、中学生の持ち主本人に掛け合ったときにどのように説明すれば良いか見当もつかず、かといって少年の親に看板の撤去を依頼したとしても彼らを納得させる自信がありません。
この八方ふさがりの状況で、道で偶然看板の持ち主の少年と鉢合わせ、思わず彼の前に立ったという場面です。ここには、思いがけず現れた交渉の機会を逃すまいとする「私」の気持ちが表れています。
選択肢:①
「もしも納得せぬまま、ただこちらとのいざこざを避けるために親が看板を除去してくれたとしても、相手の内にいかなる疑惑が芽生えるかは容易に想像がつく」という文章がこの選択肢の根拠です。
上記の文章で「疑問が芽生える」の主語になっているのは「相手」です。そしてその「相手」が指すものは「親」です。選択肢ではこの主語が「少年」になっているため誤りです。
選択肢:②
「隣の家に電話をかけ、親に事情を話して看板をどうにかしてもらう、という手も考えた。少年の頭越しのそんな手段はフェアではないだろう」という文章がこの選択肢の根拠です。
上記本文の通り、看板の持ち主である少年に話を通さずにいきなり彼の親に話をすることは、少年にとっては不公平感のある対応です。
この選択肢は「私」が少年とコミュニケーションを取りたいという思いと行動につながるため、正答です。
選択肢:③
本文に「男と睨み合った時、なんだ、お前は案山子ではないか、と言ってやる僅かなゆとりが生れるほどの力にはなった」とあり、この選択肢は本文に記載のない内容ではありません。
しかし、これは妻が側にいる時に看板の男に対して少し強気でいられたことを示す文章に過ぎず、「私」が少年に話しかけようとする原動力にはならないため、この選択肢は誤りです。
選択肢:④
内容に誤りはありませんが、少し足りない選択肢です。「男がいつもの場所に立っているのを確かめるまで安心でき」ないほど男の存在が気になっており、看板を撤去してほしいという気持ちがあるため、「私」は少年と会話をしたかったのです。
「男の視線を感じると、男がいつもの場所に立っているのを確かめるまで安心できな」いことが直接少年への接触につながっているわけではないため、この選択肢は誤りです。
選択肢:⑤
「私」が少年とコミュニケーションを取りたいと思うことの背景にあるのは、看板の男の存在が気になるため看板を裏返したり撤去するなどしてもらい男が視界に入らないようにしたいという気持ちです。
そこに少年の身なりは関わらないため、この選択肢は誤りです。
選択肢:⑥
「私」は、看板撤去を隣の家にお願いする良い方法が思いつかず行き詰まっていました。少年への交渉にはハードルの高さを感じ、彼の親への相談も得策ではないと考えるものの、看板撤去はしたいという「私」の思いと合致するため、この選択肢は正答です。
問2
正答は①です。
直前の「一応は礼を尽して頼んでいるつもりだったのだから、中学生の餓鬼にそれを無視され、罵られたのは身に応えた」や、その後ろにある「無視と捨台詞にも似た罵言とは、彼が息子よりも遥かに歳若い少年だけに、やはり耐え難かった」が根拠となります。
選択肢:①
「ジジイ―――」という少年の暴言が「存在が根底から否定されたように感じた」ことにつながるのは少し言い過ぎだと思った方もいるかもしれません。しかし、続く本文には「我が身は碌な勤め先も持たぬジジイである」と記載されています。
冒頭文にも「『私』は会社勤めを終え」とわざわざ表記されており、「私」は引退したことを少なからず気にしていることが読み取れます。
定年退職しただの老人に成り下がったことを自認しているときに、中学生から「ジジイ」と罵られたことは、「私」にとって耐えがたい苦痛であったと推測できます。①が正答です。
選択肢:②
「そのことを妻にも言えないほどの汚点だと捉えたことによる深い孤独と屈辱感」が誤りです。因果関係が異なります。
少年から罵られたことを妻には言えない汚点とすることは本文の内容と相違ありませんが、「汚点だと捉える」ことが「深い孤独と屈辱感」を覚える理由になっているわけではありません。
少年から罵られたことが「深い孤独と屈辱感」につながるため、この選択肢は誤りです。
選択肢:③
「常識だと信じていたことや経験までもが否定されたように感じた」が誤りです。この言いかえと捉えられる文言の記載が本文にないためです。本文に根拠がない選択肢は正答にはできません。
選択肢:④
「看板についての交渉が絶望的になったと感じた」が誤りです。
「身体の底を殴られたような厭な痛み」の直前には「中学生の餓鬼にそれを無視され、罵られたのは身に応えた」という語りがあり、痛みの中身は罵られたことであることが示されています。
そのため、「看板についての交渉」が痛みの中身であるとするこの選択肢は誤りです。
選択肢:⑤
「幼さの残る少年に対して一方的な干渉をしてしまった自分の態度に、理不尽さを感じたことによる強い失望と後悔」が誤りです。
「私」が少年に直接交渉をしたことに理不尽さを感じ悔やむという選択肢ですが、「私」が少年とコミュニケーションを取ったことが間違いであったと自身の行動を反省する描写はありません。
あくまで少年から罵られたことが「耐え難かった」く、それにより痛みを感じているためこの選択肢は誤りです。
問3
正答は③です。「私」は、立てかけてあるだけだと思った看板が、意外にも金属の補強材や針金でしっかり固定されていたことを知りました。
これほど手をかけているということは、少年は軽い気持ちで看板を飾っているわけではなく、「私」は少年の看板に対する強いこだわりを感じ取り、最後の語りにつながったという流れを意識して選択肢の検討を行います。
選択肢:①
「共感を覚えたことで」が誤りです。「私」は、立てかけてあるだけだと思った看板が、意外にも金属の補強材や針金でしっかり固定されていたことを知り、少年なりの覚悟を持って看板を置いていたと悟って少年を認めてやりたいという気持ちが芽生えました。
その考えに至るまでに「私」自身の決意云々の話は出てこないため、この選択肢は誤りです。
選択肢:②
「陰ながら応援したいような新たな感情」が誤りです。「私」は「認めてやりたいような気分がよぎった」と語っていますが、それは「応援したい」と言うには弱い感情であるためです。
選択肢:③
本文の内容と相違がないためこの選択肢が正答です。「その心構えについては受け止めたいような思いが心をかすめた」が「認めてやりたいような気分がよぎった」の言い換えです。
選択肢:④
「この状況を受け入れてしまったほうが気が楽になるのではないか」が誤りです。
「私」はそれまで自分のことを「ジジイ」と罵った少年にプラスの感情を抱いていませんでしたが、彼なりの考えを持って看板を出していることを感じ取り「認めてやりたいような気分」になりました。
この選択肢からは少年に対する歩み寄りが読み取れないため、誤りです。
選択肢:⑤
「彼の気持ちを無視して一方的に苦情を申し立てようとしたことを悔やみ」が誤りです。「私」は少年に一定の理解を示そうとしていますが、少年に看板の撤去を依頼したことを後悔しているかは本文に記述がなく読み取ることもできないためです。
問4(ⅰ)
正答は②です。選択肢の検討を行います。
選択肢:①
「我が子に向けるような親しみを抱いている」が誤りです。確かに「私」は少年のことを「息子よりも遥かに歳若い少年」であると認識していますが、少年に対する私の感情は「怒り」であり「親しみ」ではありません。
選択肢:②
少年のことを「中学生の餓鬼」と表現していたり、「馬鹿奴」とつぶやいたり、「私」は怒りと取れるマイナスな感情を抱いているため、この選択肢が正答です。
選択肢:③
少年を「中学生の餓鬼」「あの餓鬼」と表現するようになったのは、無視をされ罵倒された後です。そのため、交渉中に「内心では『中学生の餓鬼』『あの餓鬼』と侮っている」とするこの選択肢は、時系列が間違っているため誤りです。
選択肢:④
「彼の若さをうらやんでいる」が誤りです。
確かに「私」は少年のことを「息子よりも遥かに歳若い少年」であると認識していますが、自分の老いを意識するとともにショックを受けることに加え罵倒した少年に対して怒りの感情を抱いており、若さを羨やむ描写はありません。
選択肢:⑤
作中で少年のことを「裏の家の息子」と呼んでいるのは「私」の妻です。「少年と遭遇したのちには少年を強く意識し」「彼の年頃を外見から判断しようとしている」というのは文意が通りません。
積極的に正解と言えないため、この選択肢は保留とし、より確実に正解と言える選択肢を選びます。
問4(ⅱ)
正答は①です。選択肢の検討を行います。
選択肢:①
選択肢の「自分の意識が露呈しないように工夫する」とは、看板への執着を見せることで「頭のおかしな人間」と思われることを避けるために、「私」があえて「映画の看板」と表現していることを指します。
確かに「私」は看板の絵について悪く言わないよう意識していろいろな言い方をしており、その様子は「余裕をなくして表現の一貫性を失った」という文言とかけ離れた状況ではないため、この選択肢が正答です。
選択肢:②
「私」は交渉相手の少年に対して礼を尽くした対応をしますが、「プライドを捨てて卑屈に振るまう」ほど下手に出ているわけではないため誤りです。
選択肢:③
「看板の絵」「横に移す」「裏返しにする」は少年から拒絶される前の発言であり、時系列が間違っているためこの選択肢は誤りです。
選択肢:④
「看板の絵を表する言葉を見失い慌てふためいている」が誤りです。「私」は看板の絵について悪く言わないよう意識していろいろな言い方をしますが、「慌てふためいている」は過剰な表現であるため、この選択肢は誤りです。
問5(ⅰ)
正答は①です。本文では、庭の男の看板を案山子に例え、その看板におびえる「私」を雀と表現しています。
そのうえで、看板を家の中から遠目で見て怯えていた時と、近くで見て「こんなものか」と見掛け倒しの看板に拍子抜けしたときの違いを答えさせる問題です。
選択肢:(ア)
Xは「看板を家の窓から見ていた時の『私』」について適当なものを選ぶため、看板が恐ろしいものであると述べている選択肢が正解です。
句aでは雀は案山子に脅かされており、それは案山子が役割を果たしている=「『おどし防ぐ』存在」であることになるため、(ア)が正しいです。
選択肢:(イ)
Xは「看板を家の窓から見ていた時の『私』」について適当なものを選ぶため、看板が恐ろしいものであると述べている選択肢が正解です。
選択肢の「案山子が虚勢を張っている」「『見かけばかりもっともらしい』存在」は「私」が看板を恐れているときとは合致しない解釈であるため、この選択肢は誤りです。
選択肢:(ウ)
Yは「看板に近づいたときの『私』」について適当なものを選ぶため、看板を近くで見て「こんなものか」と見掛け倒しの看板に拍子抜けすることを述べている選択肢が正解です。
句bでは、動けない案山子が雀を威嚇することはできても実際に追い払うことができないことが詠まれており、「『見かけばかりもっともらしい』存在」と言えるためこの選択肢が正答です。よって、(ア)(ウ)の組み合わせの①が正答です。
選択肢:(エ)
Yは「看板に近づいたときの『私』」について適当なものを選ぶため、看板を近くで見て「こんなものか」と見掛け倒しの看板に拍子抜けすることを述べている選択肢が正解です。
案山子が「『おどし防ぐ』存在」であることは上記とは全く逆であるため、この選択肢は誤りです。
問5(ⅱ)
正答は⑤です。選択肢の検討を行います。
選択肢:①
「これまで『ただの板』にこだわり続けていたことに対して大人げなさを感じている」が誤りです。
「私」は近くで見た看板に拍子抜けし、その後思いのほか少年がしっかり看板を固定していることを知り、「あ奴はあ奴でかなりの覚悟でことに臨んでいるのだ」と感想を抱いたところで終わります。
「私」が自分自身に対してどのように思ったか述べられておらず推測するための材料もなく、「大人げなさを感じている」かどうかは不明であるため、この選択肢は誤りです。
選択肢:②
「私」が遠目で看板を見ていた時と近くで見た時に抱いた感想が逆になっているため誤りです。遠くから看板を見ていた時はそこに描かれた男は恐怖の対象でしたが、近づいてみると看板が大したことなかったことに気づきます。
選択肢:③
「自分に自信をもつことができたと感じている」が誤りです。選択肢①同様、「私」が自分自身に対してどのように思ったか述べられておらず推測するための材料もなく、「自分に自信をもつことができた」かどうかは不明であるためです。
選択肢:④
「自分に哀れみを感じている」が誤りです。選択肢①③同様、「私」が自分自身に対してどのように思ったか述べられておらず推測するための材料もなく、「自分に哀れみを感じている」かどうかは不明であるためです。
選択肢:⑤
恐れていた看板を目の前にしたとき、「私」は「ただの板」と感じ苦笑しました。この「苦笑」が選択肢の「自分に滑稽さを感じている」の言い換えとなっています。選択肢のその他の内容に誤りがないため、この選択肢が正答です。
最後に
今回は、令和4年度大学入試センター試験の小説を解説しました。
ぜひ参考にしてみて下さい!