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【共通テスト】2019年(令和1年度) 国語 小説解説

入試において、現代文ならまだしも小説の解き方や勉強法が分からない、解説を読んでも納得できない、センスが無いなどと小説の読解に苦手意識を持っている方も多いのではないでしょうか?

この記事では、論理的に答えを導き出すプロセスを解説します。ぜひ問題を解き、答え合わせをした状態で読んでみてください!

令和1年度本試験 小説

上林暁『花の精』からの出題です。過去3年分の試験問題は大学入試センターのホームページからダウンロードできます。

大学入試センター

問1

辞書義を回答させる問題です。配点は少ないですが、余計な失点をしないために確実に抑えたい問題です。

言葉の意味を知っていることがベストですが、仮に意味を知らない単語が問題になっていたとしても意味を文脈から推測するプロセスをご紹介します。

(ア)

「お手のもの」は「得意」という意味で、正答は③です。郷里で農作業をしていた妹が、手慣れた様子で鍬を使って畝を切るという文脈です。

「お手のもの」の意味を知らなかった場合は文脈から判断することになりますが、本問題の不正答の選択肢を積極的に誤りとするには判断材料が足りないため、文脈から正解を導き出すのは困難でしょう。

選択肢:①

選択肢を入れて本文を読んでみると、「妹は『見通しをつけていて』、鍬を持つと、庭の開いている西隅に鍵の手に畝を切った」となります。

前の文章で妹が郷里で農作業をしていたことが示されていることを考えると、畝を切ることに対して見通しをつける云々ではなく、畝を切ることそのものに慣れていると読むべきで、この選択肢は誤りです。

選択肢:②

選択肢を入れて本文を読んでみると、「妹は『腕がよくて』、鍬を持つと、庭の開いている西隅に鍵の手に畝を切った」となります。意味の通らない文章ではないため、文脈から積極的に誤りと判断することは難しいです。

選択肢:③

選択肢を入れて本文を読んでみると、「妹は『得意としていて』、鍬を持つと、庭の開いている西隅に鍵の手に畝を切った」となります。正答はこの選択肢です。

選択肢:④

選択肢を入れて本文を読んでみると、「妹は『ぬかりがなくて』、鍬を持つと、庭の開いている西隅に鍵の手に畝を切った」となります。

「ぬかりない」は「油断していない、抜け漏れがない」という意味であり、文脈に合わない表現であるためこの選択肢は誤りです。

選択肢:⑤

選択肢を入れて本文を読んでみると、「妹は『容易にできそうで』、鍬を持つと、庭の開いている西隅に鍵の手に畝を切った」となります。意味の通らない文章ではないため、文脈から積極的に誤りと判断することは難しいです。

(イ)

「肚を決める」は「覚悟を決める、決心する」と言う意味で、正答は①です。それを知らなかった場合、「肚を決める」の部分に各選択肢を入れて読んでみます。

ここは、月見草を失って意気消沈していた私が、「草花の世話」をしながら心を慰めている時、O君から「山に一緒に行っても良い」と言われた場面です。

目的が山だけであれば行く気がしなかった「私」ですが、是政へ行けば月見草がたくさん咲いていると聞いて、山に行くことを決めました。この文脈を踏まえて検討します。

選択肢:①

選択肢を入れて本文を読んでみると、「私は川原で寝そべったり、山を見たりして遊び、かえりには月見草を引いて来ることに、『気持ちを固めた』」となります。山に行くことを決めた「私」の状況を正しく表しているため、この選択肢が正答です。

選択肢:②

選択肢を入れて本文を読んでみると、「私は川原で寝そべったり、山を見たりして遊び、かえりには月見草を引いて来ることに、『段取りを整えた』」となります。

「私」とO君が会話している場面であり、段取りを整えるような時間の余裕はなく、そもそも「~~することに段取りを整えた」というのは「段取り」の正しい使い方ではないため、この選択肢は誤りです。

選択肢:③

選択肢を入れて本文を読んでみると、「私は川原で寝そべったり、山を見たりして遊び、かえりには月見草を引いて来ることに、『勇気を出した』」となります。文脈に合わない表現であるため、この選択肢は誤りです。

選択肢:④

選択肢を入れて本文を読んでみると、「私は川原で寝そべったり、山を見たりして遊び、かえりには月見草を引いて来ることに、『覚悟を示した』」となります。

「覚悟を決めた」であれば意味の通る文章になりますが、「私」がO君に覚悟を示す場面ではないため、この選択肢は誤りです。

選択肢:⑤

選択肢を入れて本文を読んでみると、「私は川原で寝そべったり、山を見たりして遊び、かえりには月見草を引いて来ることに、『気力をふりしぼった』」となります。文脈に合わない表現であるため、この選択肢は誤りです。

(ウ)

「目を見張る」は「目を見開く」という意味であるため、正答は②です。もしそれを知らなかった場合、選択肢の「間違いではないかと」「感動して」「動揺しつつ」「集中して」「まわりを」を手掛かりに答えを導きます。

ここは、「私」が病床に臥す妻を思って感傷的な気持ちになっていたとき、目の前に好きな月見草が果てしなく遠くまで続いているかのように群生しているのを目撃した場面です。ここでの「私」の感情は、驚き・嬉しさ・感動と考えます。

選択肢:①

「間違いではないかと」疑う描写はなく、ただ目の前の光景に目を奪われている状況のため、この選択肢は誤りです。

選択肢:②

選択肢に「感動」とあるため、これが正答です。

選択肢:③

「動揺」には「平静を失って心が揺れ動く」という意味があります。嬉しさや感動といったプラスの感情とは異なるため、ここ選択肢は誤りです。

選択肢:④

「集中する」は驚き・嬉しさ・感動とは関係のない動作であるため、この選択肢は誤りです。

選択肢:⑤

「まわりを見わたす」は驚き・嬉しさ・感動とは関係のない動作であるため、この選択肢は誤りです。

問2

正答は③です。選択肢の検討を行います。

選択肢:①

「これからは一緒にたくさんの野菜を育てる」が誤りです。菜園を作るのは妹であり「私」は「草花の世話」をしています(1行目)。「私」が一緒に野菜を育てることは文中で示されていないため、この選択肢は誤りです。

選択肢:②

「妹に接し、気後れしていた」が誤りです。気後れとは「相手の勢いに押されてひるむこと」ですが、「私」は「とにかく、作るなら作って見よ」(6行目)と妹の野菜作りを後押しするコメントをしており、気後れしていたとは読み取れません。

また、「私」は月見草を失った悲しみについて「草花の世話をして、心を紛らわせている」(1行目)と語っているため、「家族である妹との関わりは失った月見草に代わる新たな慰めになるのではないか」と心の慰めが妹であるとする文言が誤りです。

選択肢:③

妹は野菜を作ろうと思い立って茄子を買い、手慣れた手つきで畝を切り、2〜3日後にはトマトを買って来ました。意気消沈していた妹がこのように活動的になる様子を見て「私」が「妹の回復の兆しを感じ」るのは自然なことです。

妹は野菜を育てることで、そして「私」は草花の世話をすることで「途方に暮れた思いも、一と時忘れることが出来」とあり、選択肢の後半の文章は違和感がないため、③が正答です。

選択肢:④

「自分が庭を一人占めしていることを妹から指摘されたような気持ちになり」が誤りです。これは、夫に先立たれて途方に暮れていた妹(前文)が庭で農作業を始めることをきっかけに積極的に動き始める場面です。

「私」はこの妹の姿を見て良い兆候であると感じていることが読み取れるため、「指摘されたような気持ち」という後ろ向きな文言が入っていること選択肢は誤りです。

選択肢:⑤

「妹の姿に将来の希望を見出した」が誤りです。

確かに、夫の死により沈んでいた妹が前向きになっていることは示されていますが、明るくなる兆しが見えているだけであり「将来の希望」にまでその影響を見出すのは飛躍しているため、この選択肢は誤りです。

問3

正答は⑤です。選択肢の検討を行います。

選択肢:①

「爽快」は「よろこばしい」の言い換えとは言えないため、この選択肢は誤りです。

選択肢:②

月見草を引く「私」の描写は60行目のみとなり、「川原で手頃な月見草を物色した」としか書かれておらず、「私」が「月見草を傷つけまいと少ししか月見草をとらなかった」かは不明であるため、この選択肢は誤りです。

選択肢:③

「その行動の大胆さは自分を鼓舞するような痛快なもの」が誤りです。本文の「自分を鼓舞するような痛快なもの」は「なんだかよろこばしい」の言い換えとするのは適切ではないためです。

選択肢:④

「その違いを考慮せず無造作に持ってきたO君」が誤りです。本文には「大きな株を手いっぱいに」としか記載がなく、その月見草の匂いの有無についての記述がないためです。

また、その後の語りで「私も思い切って大きなやつを引けばよかったと思った」とあり、O君の行為を肯定していることを考慮すると、「いかにも月見草に興味がない人の行為」と「私」がとらえているとは考えにくいでしょう。

選択肢:⑤

O君は夕方になっても釣りを続け、「もうあと十分やるから、君は月見草を引いててくれない?」と発言する様子から、熱心に釣りをするO君の姿が強調され、選択肢の前半部分に誤りはありません。

O君が大きな株を抱える様子は、喪失感から月見草を取りに来た「私」の行為とリンクするものであり、後半部分にも誤りはないためこの選択肢が正答です。

問4

正答は②です。選択肢の検討を行います。

選択肢:①

「忘れようとしていた妻の不在」が誤りです。「今日家を出てから、妻のことを思い出すのは初めてである」とあり、意図的に忘れようとしていたのではなく、無意識のうちに思い出していなかったことが読み取れます。

選択肢:②

「妻がすぐそこにいるような思い」は本文の「恰も自分の妻もこのサナトリウムに住んでいるかの如き気持」「妻が直ぐそこの病室にいるかの如き気持になって」の言い換えです。その他の選択肢の文章も本文と異なる点がないため、②が正答です。

選択肢:③

「他の施設に入院している妻もまた健やかに生活しているような錯覚」が誤りです。

妻の身を案じて「妻よ、安らかなれ」と胸の中で言っており、「私」は妻の健康を祈っているだけです。「私」が妻の健康が確実なものであると認識しているように読める本選択肢は誤りです。

また、「現実との落差に対する失望」を「私」が感じていることは読み取れず、これは飛躍した解釈です。

選択肢:④

前半の文章に本文との不一致はありませんが、後半が誤りです。

確かに、「私」は失った月見草を取り戻そうとO君と山へ向かい、そのときは月見草のことばかりを考えていて、それにより一日中妻のことを思い出すことはありませんでした。

しかしそれに対して「私」が罪悪感を覚えているということは示されていないため、④は誤りです。

選択肢:⑤

「骸骨のように見え」たサナトリウムに「灯がつきはじめ、」「それを見ていると、突然私は病院にいる妻のことを思い出した」とあるため、選択肢の「サナトリウムの建物が骸骨に見えたことで、療養中の妻のことをにわかに意識するようになった」は誤りです。

また「私」は妻の不在を感じて「寂しさがこみあげて来」ましたが、「妻がいつまでも退院できないのではないか」と悲観的になっているわけではありません。

問5

正答は①です。選択肢の検討を行います。

選択肢:①

サナトリウムを見て妻のことを思い出して「涙を湛えたような気持」になっていた「私」ですが、「息を呑む」ような光景に目を奪われ、それまでの感傷的な気持ちが月見草を見た感動に移り変わっているため、「自分の感傷を吹き飛ばすほどのものだった」という記述は正しいです。

「憂いや心労」は庭の月見草を失った喪失感や病気の妻のことを指しますが、上記文脈により月見草の群生がそうしたことを忘れさせる「天国」であると表現されることは適切であるため、この選択肢が正答です。

選択肢:②

「私」は痩せた月見草を見て「少し物足りなかった」と感じていますが、以降の文章では「そこいらいっぱいの月見草を見ると、もう大丈夫だという感じだった」と前向きな語りがあります。

また橋番に「なかなかつかないんだよ」と言われますが、それに対する「私」の語りはなく、「持ち帰っても根付かないかもしれない」と思っているかどうかは不明です。「庭に月見草が復活するという確信を得た」の根拠もなく、この選択肢は誤りです。

選択肢:③

「妻の病も回復に向かうだろうという希望をもった」という箇所が誤りです。

サナトリウムを見て妻のことを思い出して「涙を湛えたような気持」になっていた「私」ですが、群生する月見草に心を奪われ、意識が妻から月見草に移り変わった場面であるため、妻のことを思い返しているとするこの選択肢は誤りです。

「回復に向かうだろう」の根拠もありません。

選択肢:④

「次々に現れては消える月見草に死後の世界のイメージを感じ取り」が誤りです。「私」は群生する月見草に心を奪われているだけでおり、「死後の世界のイメージ」と「花の天国」は真逆のものです。

選択肢:⑤

「私」は群生する月見草に心を奪われていて意識が妻から月見草に移り変わっているため、妻のことに触れているこの選択肢は誤りです。また、「自分と妻の将来に明るい幸福を予感させてくれた」というのは本文から読み取れない飛躍した文章です。

問6

正答は④⑥です。選択肢の検討を行います。

選択肢:①

「妹の快活な性格」が誤りです。前文に「夫に先立たれて途方に暮れた妹」とあり、むしろ沈んでいることが読み取れます。

菜園を作ることを提案して活動的になった背景には落ちた気持ちを紛らわそうとする意図があり努めて明るく振る舞っているだけであるため、「快活な性格」と言うには弱いでしょう。

選択肢:②

体言止めと印象深さに関係はないため、この選択肢は誤りです。

選択肢:③

本選択肢で示されている擬音語・擬態語は、情景や心情をよりリアルに表現する役割を担っており、「場面の緊迫感を高めている」とはズレるため誤りです。

選択肢:④

44・45行目のO君の発話により、月見草を知らない読者でも匂いがする月見草の存在を知ることが可能になります。60行目で急に月見草の匂いに関する語りを挿入するより、44・45行目で布石を打って60行目に繋がると考えることはできます。

積極的に正答であるとは言えませんが、誤りとは言えない選択肢です。

選択肢:⑤

「次第に悪化」が誤りです。疲れ・寒さ・空腹は全く別の事象で同じベクトルにないため比較ができず、よって少しずつ悪化していると言えません。

もしそのように言う場合は疲れ・寒さ・空腹に辛い順に序列があり、かつそれが人々の共通認識である必要がありますが、感覚に序列をつけることは困難であるためこの選択肢は誤りです。

選択肢:⑥

本文ではサナトリウムが「骸骨のように」と表現されていますが、ここからは「私」がサナトリウムを不気味なもの、怖いものとして捉えていることが読み取れます。

これは選択肢の「比喩を用いることによって、『私』の心理を間接的に表現している」と一致するため、この選択肢は正答です。

最後に

今回は、令和1年度大学入試センター試験の小説を解説しました。

ぜひ参考にしてみてください!

ABOUT ME
yuka
「純文学を身近なものに」がモットーの社会人。谷崎潤一郎と出会ってから食への興味が倍増し、江戸川乱歩と出会ってから推理小説嫌いを克服。将来の夢は本棚に住むこと!

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