入試において、現代文ならまだしも小説の解き方や勉強法が分からない、解説を読んでも納得できない、センスが無いなどと小説の読解に苦手意識を持っている方も多いのではないでしょうか?
この記事では、論理的に答えを導き出すプロセスを解説します。ぜひ問題を解き、答え合わせをした状態で読んでみてください!
Contents
令和2年度本試験 小説
原民喜『翳』からの出題です。過去3年分の試験問題は大学入試センターのホームページからダウンロードできます。
問1
辞書義を回答させる問題です。配点は少ないですが、余計な失点をしないために確実に抑えたい問題です。
言葉の意味を知っていることがベストですが、仮に意味を知らない単語が問題になっていたとしても意味を文脈から推測するプロセスをご紹介します。
(ア)
正答は①です。選択肢の検討を行います。
選択肢:①
興じる=楽しむという意味であるため、この選択肢が正答です。以下の通り消去法でも導くことができます。
選択肢:②
本文には「兵隊の姿勢を身につけようと陽気に騒ぎ合っている」とあり、「負けまいと競っている」という言葉に示されるような火花を散らしている様子や互いをライバル視している様子は読み取れないため、この選択肢は誤りです。
選択肢:③
「それぞれが」という文言からこの選択肢が誤りであると判断できます。「興じ合っている」の言い換えが正答であることを考えると「それぞれ」はそれと真逆の表現であるため、この選択肢は誤りです。
選択肢:④
「興じ合っている」というところから少なくとも2人の人が互いに何かをしていることが分かりますが、選択肢の「わけもなくふざけている」には「合っている」に該当する文言が含まれていないため、この選択肢は誤りです。
選択肢:⑤
「合っている」が「相手とともに」の言い換えとなっていることを考えると、「興じる」が「練習」という意味になることになるため、この選択肢は誤りです。
(イ)
正答は①です。選択肢の検討を行います。
選択肢:①
「みんなに可愛がられているに違いない」「炊事も出来るし」(59行目)という妻の語りがポイントです。
魚芳は炊事が得意で、かつ親しみやすいため「頼みやすく思われ使われる」と考えると意味が通ります。この選択肢が正答です。
選択肢:②
「重宝がられる」の意味が分からない場合は積極的に誤りと言えないため、より正解に近いものがあればそれを選びます。この問題の場合①を選ぶのが適当です。
選択肢:③
「一目置く」「尊ばれる」は高評価であるという点で、妻の「みんなに可愛がられているに違いない」(59行目)という語りとのズレはありません。
しかし「一目置く」「尊ばれる」は一定の距離を保つニュアンスがあるのに対し「可愛がられている」はより親しみがある表現であるため、この選択肢は誤りです。
選択肢:④
59行目「みんなに可愛がられているに違いない」という妻の語りから、皆が魚芳に対してプラスの感情を抱いていると想像していることが読み取れるため、「思いのままに利用される」というマイナスの表現は誤りです。
選択肢:⑤
59行目「みんなに可愛がられているに違いない」という妻の語りと、「価値が低いとみなされる」という表現は相反するため、この選択肢は誤りです。
(ウ)
正答は④です。実際に魚芳が歯医者に現れた73行目を読むと、魚芳は軍服を着て歯医者を訪れています。それを見た老人の歯医者は「ほう、立派になったね」と懐かしげに肯きました。
歯医者に普段着る服ではなくわざわざ軍服を着て行っていることから、戦争に行く前に通っていた歯医者に立派な軍服姿を見せたいという魚芳の気持ちが読み取れます。
上記を踏まえると、①「何の疑いもなく」、②「人目を気にしつつ」、③「心の底から喜んで」、⑤「すがすがしい表情で」は選択肢として適当ではありません。④「誇らしく堂々と」が正答です。
問2
正答は④です。「暗い、望みのない明け暮れ」とは、妻の病や義兄の死、激しさを増す戦火のことです。選択肢の検討を行います。
選択肢:①
「妻との思い出に逃避し安堵を感じていた」が誤りです。選択肢④と同じ考え方になりますが、「私」は状況を顧みずに妻のことを思い出して今から逃げている節があり、それを「安堵」とプラスに捉えることは誤りです。
選択肢:②
後半が誤りです。「私」は妻との思い出を回想しているだけで、妻のことを思い出せなくなる未来にまで「私」の考えは及んでいません。
選択肢:③
「生活の意欲を取り戻そう」が誤りです。「私」は妻との思い出を回想しているだけで今後の生活のことは考えておらず、本文から読み取れない飛躍した解釈であるため、この選択肢は誤りです。
選択肢:④
本文では「サイレンはもう頻々と鳴り唸っていた」とあり、戦火が近く命が脅かされる状況であることが読み取れます。そのような状況では過去のことを思い出すことよりも今を生き延びることを優先するべきですが、「私」は過去を回想するばかりです。
「亡き妻への思いにとらわれ続けていた」がこのことの言い換えであるため、この選択肢が正答です。
選択肢:⑤
「私」は「出した筈の通知にまだ返信が来ない」ことを気にしているだけで、交友関係に執着しているわけではありません。この選択肢は誤りです。
問3
正答は②です。「笑いきれない」は、何かが引っかかって心から楽しく笑えないということです。
その何かとは入営です。入営=兵士として戦地に赴く=死を予感という連想です。「目に見えない憂鬱の影はだんだん濃くなっていたようだ」という語りに現れるように御用聞の若者が次々の招集されている状況で、忍び寄る影を思わせるものが正解です。
選択肢:①
生きて帰れないという予感は正しいですが、「気のはやりがあらわで」という理由が異なります。妻は御用聞らが次々と招集され戦地に赴くことから彼らの負傷や死に思いをめぐらせており、素直に笑えていません。この選択肢は誤りです。
選択肢:②
「になえつつ」が入営を意識させることで影が忍び寄っている状況は、「以前の平穏な日々が終わりつつある」と一致するため、この選択肢が正答です。
選択肢:③
「魚芳たちがいだく期待を感じ取りつつ」が誤りです。「期待」が戦争に勝つことなのか、戦地に赴くことなのか、本文からは読み取ることはできません。
妻は御用聞の青年たちの死を予感して素直に笑えていないのであり、商売人として一人前になる前に戦争に行くことを憂いているわけではないためこの選択肢は誤りです。
選択肢:④
本文には「兵隊の姿勢を身につけようとして陽気に騒ぎ合っている」とあり、選択肢の「熱心に練習している」とは少しズレます。
妻は御用聞の青年たちの死を予感して「笑いきれていない」ため、「軍務についたら苦労するのではと懸念している」は誤りです。
選択肢:⑤
魚芳たちは「陽気に騒ぎ合って」おり、不安を感じているかどうかは読み取れません。
また、「その恰好がおかしいので私の妻は笑いこけていた」とあり、「そのふざけ方がやや度を越していると感じている」という表現はそぐわないため、この選択肢は誤りです。
問4
正答は⑤です。本作は「私」の一人称小説であり魚芳の心情は直接語られないため、「私」の魚芳を描写する語りを根拠に正解を導きます。
選択肢:①
戦時中に限らず、連絡無しで訪問するのはあまり丁寧ではないためこの選択肢は積極的に正解に出来ません。より正解に近い選択肢があれば、それを選びます。この問題の場合⑤を選ぶのが適当です。
選択肢:②
「かつての勤め先に向かう途中に立ち寄ったので」家に上がらないというのは、本心ではなく口実に過ぎません。
89行目に「久振りに訪ねて来ても、台所の閾から奥へは遠慮して這入ろうともしない魚芳」とある通り、魚芳は遠慮して家に上がらなかったためこの選択肢は誤りです。
選択肢:③
魚芳が後ろめたさを隠すことは「私」の家に上がらない理由にならないため、この選択肢は誤りです。
選択肢:④
本作は「私」の一人称小説であり魚芳の心情は直接語られないため、魚芳が妻の病状を「予想」していたこと、その予想を上回っていたことを読者である私たちは知ることができないため、この選択肢は誤りです。
選択肢:⑤
魚芳は軍服を着ていて今は魚屋として「私」の家を訪れているわけではありませんが、かつては御用聞きと得意先という上下関係があり、それを無視せずに遠慮する気持ち(89行目)が働いていると読み取れるため、この選択肢が正答です。
問5
正答は②です。選択肢の検討を行います。
選択肢:①
「紋切型の悔み状であっても、それにはそれで喪にいるものの心を鎮めてくれるものがあった」(2行目)とあり、紋切型の返事から妻の死の悲しみを共有できないと落胆しているわけではありません。
選択肢:②
91行目では、魚芳が「ぎりぎりのところまで堪えて、郷里に死にに還った男」と表現されています。直後に「郷里にただ死にに帰って行くらしい疲れはてた青年の姿」が描写されており、魚芳と彼らを重ねていることが読み取れるため、この選択肢が正答です。
選択肢:③
59行目の「きっと魚芳はみんなに可愛いがられているに違いない」「重宝がられるだろう」という文章から、選択肢の「新たな環境になじんだ様子を知る」という文章につながったと推測できます。
しかしその様子はあくまで私と妻の憶測であり、「なじんだ様子」と確定のニュアンスがあることに違和感があります。
赴任先が変わり北支から便りをよこすようになったとありますが、本文にはその事実のみが書かれており、選択肢の「周囲に溶け込めず立場が悪くなったのではないか」は本文から読み取れないためこの選択肢は誤りです。
選択肢:④
選択肢の「時局を顧みない楽観的な傾向が魚芳たちの世代に浸透しているような感覚にとらわれていった」が誤りです。
確かに「また帰って来て魚屋が出来ると思っているのかしら」と嘆く妻の様子が確認できますが、これはあくまで魚芳に対しての発言であって、選択肢では「魚芳たちの世代」と主語が大きくなっているためこの選択肢は誤りです。
選択肢:⑤
選択肢に「他人事のように語る返事」とあり、それは本文の「大根一本が五十銭、内地の暮しは何のことやらわかりません。おそろしいことですね」という文章を受けたものだと思われます。
御用聞をしていた時のやり取りや、「私」たちと魚芳が戦地と内地で文通をしたことから彼らが深い関係であることを鑑みたとき、この一節は「他人事のように語る返事」と冷たい印象のものではなく同情と取るべきでしょう。
本文には「あれほど内地を恋しがっていた魚芳も、一度帰ってみて、すっかり失望してしまったのであろう」とあり、戦地から日本に帰ってその荒廃ぶりに失望したため、魚芳は満州の役所に就職しました。
「役所に勤めた途端に内地への失望感を高めた」のではなく、魚芳は一度内地に戻った後に失望しており、時系列が間違っているためこの選択肢は誤りです。
問6
誤っている回答は③⑥です。選択肢の検討を行います。
選択肢:①
特に誤っている点はなく、①は正しい内容です。
選択肢:②
特に誤っている点はなく、②は正しい内容です。
選択肢:③
擬音語によって「ユーモラスに描いている」という点が誤りです。状況をよりリアルに描写するために擬音語が使われており、擬音語に必ずしもユーモラスにする効果があるわけではないためです。
選択肢:④
選択肢で示されている箇所を読むと、犬に懐かれ、その犬に魚の頭をやる優しさが垣間見え、「私」とその妻を喜ばせようと鵯をせっせと取ってくる可愛らしい一面があることが分かるため、この選択肢は正しいです。
選択肢:⑤
「南風が吹き荒んでものを考えるには明るすぎる」は「午後」の説明であり、「午後」という単語が詳細に説明されているため、この選択肢は正しいです。
選択肢:⑥
確かに妻の状況が断片的に挿入されていますが、妻が家計を支えているという描写はなく、病気が悪化する妻の様子から生活の厳しさを読み取ることはできません。
激しさを増す戦争による荒廃具合と比例するように妻の状況が悪化していることを示すために、妻の様子が挿入されていると解釈するのが妥当でしょう。そのため、その選択肢は誤りです。
最後に
今回は、令和2年度大学入試センター試験の小説を解説しました。
ぜひ参考にしてみて下さい!